マサカズ:「そうか・・・じゃあ、今のところは大丈夫なのだな?」
彼は数分前から携帯でとある人物と連絡を取っていた。
ちなみにブリッジなどではなく、自室で行っている。
相手が相手なので勘違いされると面倒だからだ。
エイナ:「ええ、ですが、マサカズ様。やはり、時間の問題なのかもしれません。別荘の方で建造するわけにはいかないのですか?」
マサカズ:「そうしたいのはやまやまだが、あの別荘を用意するだけでも苦労したから、あれを運ぶなんて無理だな。何せあの場所はお前と俺しか知らないんだからな」
エイナ:「サユリ様にも言っておられないんですか?」
マサカズ:「ああ、愛しているからこそ言えないこともある。お前もいずれ分かる時が来るさ。じゃあ、また連絡する。留守を頼む」
エイナ:「イエス・マイロード。マサカズ様もお気をつけください」
それを最後に電話を切る。
電話を終え、程なくすると、目をパソコンへと向けると手を動かした。
彼のやるべき仕事は溜まっているのだから。
「PHASE−17 彷徨う意思 Aパート」
時間は夜中の2時。
もうすでに就寝時間だ。
彼は未だ起きており、パソコンと向き合っていた。
そろそろ休憩にでも入ろうか。
そう思った彼はキッチンの方へと向かった。
冷蔵庫に入っているドリンクを一気に飲み干すと溜息をつく。
飲み干した後はトイレへ向かった。
数分を経て、トイレから出ると椅子へと座った。
マサカズ:「最低だな。俺は・・・戦争を考えた奴よりずっと・・・」
ぼそっと呟いた。
もちろん、部屋には誰も居ない。
彼一人だ。
マサカズ:「仲間を守ろうとしている俺が居る。なのに、仲間を戦場へ出している俺が居る。守りたいが故に敵を討っている俺が居る。俺は・・・」
彼は理解していた。
自分の行動が矛盾に溢れていることを。
ふつうは行動に矛盾などあってはいけない。
それは筋道が通らないからだ。
しかし、マサカズの行動には矛盾が溢れている。
自分でも考えてしまうほどに。
マサカズ:「・・・あの時、俺はどうしてキラを戦いに引き込んだんだ?俺はウズミ様の言葉を守るんじゃなかったのか?」
あの時交わした父との約束。
キラとカガリを見守ると言うこと。
だが、戦いに引き入れろとは一言もウズミは言わなかった。
むしろ、逆だ。
彼キラの出生を知るからこそ、戦いに引き入れるべきではないのである。
それなのにマサカズはキラをストライクへもう一度乗せると言うきっかけを与えてしまったのだ。
マサカズ:「俺の少しの好奇心がああさせたのか。それとも俺が約束を守らない悪人だから・・・?」
彼は1年ほど、コペルニクスに在住していた。
名目上はキラの様子を見ると言うウズミの依頼だったが、マサカズ自身も興味があった。
キラという人物が最高のコーディネイターというのなら見てみたいと思ったからだ。
結局、コペルニクスへ来て彼と出会ったのだが、その時の印象はこうだった。
こいつが本当にキラ・ヤマトなのか?
最高のコーディネイターには似つかわしくなかった。
特に性格。
優しすぎる上に宿題は友人のアスランに任せっきり。
得意技がハッキングで、ゲームの裏情報を手に入れる。
とても、データ上のものと現実は違っていたのである。
しかし、1年も居ればキラという人物がどういう人間かは分かるものだ。
さらにコペルニクスでは、オーブで居た時より同年代の少年少女と話が出来たため、彼は一つの結論にたどり着くことが出来た。
それは最高のコーディネイターであっても、生活環境で変わってくると言うこと。
もっと分かりやすく言えば、人はそれぞれ違うものだ。
同じ人間など、存在しない。
なお、ドッペルゲンガーなどの空想上のものや非科学的なものは除くが。
人は違って当たり前。
最高のコーディネイターは他の例で置き換えると、金持ちの家に生まれた子供のようなものだ。
それがどのような性格になるかなど、生まれる前から分かるはずないのだ。
これらの結論にたどり着くことが出来たが、彼には願望に近い思いが残った。
最高のコーディネイターがもし戦場ならばどのような力を見せるのか。
そのきっかけが訪れたのがこの前のヘリオポリス襲撃だった。
キラがあそこに居たと言うのは本気で知らなかったが、ストライクに乗っていたのが彼と気づくと、マサカズは行動に移した。
AAへ着艦した後、すぐさま確認したのはOSだった。
あの時、彼にはPX−05という自分の機体がすでにあった。
OSも自分なりに完璧な物にできあっている。
そう思っていた。
だが、キラの搭乗していたストライクのOSはマサカズの想像をはるかに超えていた。
マサカズ:『俺でも気づかなかったシステムをこのように使うとは・・・』
キラは短時間で全てのシステムを見ていると言っても過言ではなかった。
それは本来、MSを動かすのにあまり必要ではないシステムだったはずなのだ。
しかし、キラはそれを必要なシステムとして使うことで機体性能を上げることに成功したのである。
他のシステム等も見るが、ミスはなかった。
このOSを戻せと言われても、無理に等しい。
むしろ、このOSをこのままにしておくほうがずっと価値がある。
だからこそ、彼は会議の場で言ったのだった。
マサカズ:「自分にはあのMSを扱うことはできません。あれを扱えるのはキラ・ヤマトだけです」
悔しいがこれは事実だった。
戻せと言われても無理。
もし戻すにしても、あのままの方が絶対に価値がある。
そう考えれば、たどり着く答えはほぼ決まっている。
あれに適応したパイロットを乗せる。
そう考えればキラしか乗りこなせないのだ。
結果的にキラはあれに再び乗ることとなった。
さらにはジンを撃墜するという戦果をあげた。
2度目の出撃でここまで出来るというのは、そうそう居ない。
コーディネイターと言えど、中々行えるものではない。
彼だからこそ出来たと言えるのだ。
マサカズ:「起きてしまったことを考えても仕方はないか。だが、後悔するなと言うのは無理だな」
その時、彼のパソコンから音が鳴った。
それはメールが届いたという知らせの合図だった。
すぐさま、マサカズはメールの詳細を確認する。
最初に分かったことは、特にパスワードもかかっていないメールのようだった。
マサカズ:「どこの誰だ?パスワードもかけずにメールを送るなんて・・・!?」
パスワードをかけないメールというのは今の時代では有りえないものだ。
そのことを不審に思い、呟きながら、メールの詳細を確認していたマサカズ。
しかし、その内容に驚いた。
内容をすべて確認するとマサカズは最低限の戸締まりをした後、自室を出た。
彼は自室を出ると、パイロットの待機室へと向かい、スーツへと着替える。
スーツへと着替えると自らのMSであるPX−05のコックピットへと搭乗する。
マサカズ:「パスワード入力・・・ハッチ解放。1分後に自動でハッチが戻るように設定。艦の制御はこのままコンピューターに任せるか。マサカズ・ライモート、PX−05出撃する!」
艦から飛び出す一つの光。
その光は虚空の宇宙へと消えていった。