キラ:『これが兵器じゃなかったら、もっと好きなっていたかもしれないな・・・』

整備をしながらキラは思う。
これが兵器でなかったら・・・、と。
機械に興味があるから工業ガレッジに入ったのだ。
その気持ちは純粋で、ガレッジでも人型ロボットの製作に着手していた。

マードック:「よお、坊主。整備は終わったのか?」

声をかけてきたのはマードックだった。
何もしていないキラを見て声をかけたのである。

キラ:「ええ、終わりました。今はストライクを眺めていたんです」

するとキラは自分なりに思うことを語った。
これだけの機体を動かすにはまず大事なのは動力。
バッテリーをうまく使わなければ、動くものも動かない。
しかし、そのバランスが難しく、設計は大変だったと思う。
などとマードックに語る。

マードック:「ははは。いっちょ前に技術者らしい意見だ」

この発言に良くしたのか、さらにキラは語った。
初めて作ったロボットが立ち上がった時は自分の子供が生まれたかのような感じになった、と。
でも、これは例え。
言わなくても分かるだろうがキラに子供が居るはずはないからだ。
とにかくそれくらい嬉しかったのだと、キラは言う。

マードック:「なるほど・・・。技術者にとっては子供であり、パイロットにとっては恋人のような存在か・・・」






「PHASE−16 兵器としての在り方 Aパート」



恋人。
その言葉が出ると思っていなかったキラは少し驚いた。
彼の様子を見てか、マードックは解説するような口調で説明する。

マードック:「パイロットが自分の機体を彼女のように愛するっていうだろう?」

しかし、キラには全く聞き覚えがなかった。
彼の様子を悟ったマードックは話を続ける。

マードック:「なんだ、聞いたことないのか?自分の命を預けるものなんだから、パーツ1個、ネジ1本壊れただけで自分の命もお釈迦(しゃか)になっちまうんだ。恋人のように見つめて機体のすみずみまで目を配り、ちょっとした異変も見逃さない。なっ?恋人と付き合うのと似ているだろう?」

先程のキラに対抗してか、長く語るマードック。
それは人生の先輩ならではの言葉だった。
しかし、キラにとってはあまり理解できなかった。
恋人というのがよく分からないのだ。
そのことを素直にマードックに伝える。

マードック:「がはははっ!坊主にぁまだ早すぎたか。ま、なんだ、こいつは丁度社交界にデビューしたばかりの初々しい少女のようなもんだ。お前さんがしっかりエスコートして色々と手ほどきをしてやれば、一人前の貴婦人に成長してくれるはずだ」

キラ:「て、手ほどきですか?」

マードック:「そうだ、なぜ、宇宙に住むコーディネイターが重力のない宇宙での戦闘に人型兵器であるMSを投入したと思う?」

質問されるキラ。
頭の中には色々と答えが浮かぶ。
しかし、どれが正解なのかは分からない。
仕方がないので、一番正解していそうな答えを選んだ。

キラ:「人間の動作を教えれるから・・・?」

マードック:「正解!人間と同じ骨格を持つということは、人類がこれまで得てきた経験や技術をそのまま生かすことができるからだ。つまり、銃や剣を振り回す以外にもいろんな動きを覚えさせることが出来るってことだよ」

彼の話を聞くなかで、疑問が生まれた。
ストレートにキラは疑問をぶつける。

キラ:「ということは、蹴ったり殴ったりもプログラムすれば戦闘で使えるってことですか?」

マードック:「そのとおりだ!これは俺の持論だが、機体は捕獲されれば、いつかはコピーされて対抗してくる。しかし、膨大な数の動作パターンを使いこなすにはパイロットに経験を積ませにゃらん。こればっかりはパイロットが機械だとか人造人間でない限り、コピーのしようがないからな」

冗談をほのめかすように話すマードック。

キラ:「そして肉体的に有利なコーディネイターの利点が発揮されやすく、真似されにくい兵器ということですね」

マードック:「そういうことだ。この絶対的な差を生かして戦争を有利に進めようとザフトはしてるんじゃないか?」

キラ:「戦争の事はよく解りませんが、ストライクに動作を教え込むのは面白そうですねちょっとやってみていいですか?」

彼の提案は確かに整備士の観点から見ても面白そうだ。
しかし、マードックは難色を示す。
それを教えるには格闘技術を教えられる人物が必要となるのだ。
そんなことを教えられそうな人物はムウくらいだろう。
キラはマードックの制止を振り切り、ムウを探しに行った。
彼が行きそうなところは立場などから考えて、格納庫か艦長室、もしくはブリッジっていうところだろう。
格納庫はまずないだろう。
艦長室は時間的に艦長が休む時間ではない。
となれば、ブリッジに絞られる。
行き場所がはっきりしたため、キラはブリッジに向かった。
行ってみると、案の定ムウはブリッジに居た。
入ってくるキラを見て、軽い挨拶をかける。

キラ:「フラガ大尉、お願いがあるんですが・・・大尉は格闘技とか得意ですか?」

ムウ:「格闘技ぃ?レスリングとかボクシングとかか?」

まあ、そういうものです。
と、キラは答える。

ムウ:「いやぁ、得意って程じゃないなぁ・・・それにしても、急に格闘技とはどうしたんだ?」

隠すことでもないだろう。
そう判断したキラはムウに事情を説明する。
先程、マードックと話していてストライクに格闘技を教えてみたらどうかという話になったことを。
話を聞いたムウは苦笑した。
ストライクに格闘技だなんてしたら、壊れてしまうのではないか、と。
そこへマリューが横から口を挟んだ。

マリュー:「別に不可能じゃないわよ。MSはもともと格闘も戦闘機能の1つとして設計されていますわ。戦場や戦局によって必要とされる格闘技術をいつでも組み込めるようにね。OSにはオプションモードが搭載されているはずよ」

さすが、元整備士だな。
ムウはマリューの肩を叩きながら、こう言った。
へぇ〜、そいつは知らなかったな。
だが、マリューは反論する。

マリュー:「やめてください、大尉。セクハラです」

簡単にムウは一喝されてしまった。
大声ではないが、クルーの視線はムウに集まる。
引きつった笑顔のままムウは、マリューの肩から手を離す。

マリュー:「ごほん。話を戻しますと、MSとは本来そういう使い方をするために造られたものなんです」

ムウ:「そういうことなら、士官学校で習った格闘訓練が役に立つかもしれんな。だとしても、基本的なことしか教えられんが・・・それでもいいのか?」

キラ:「はいっ!ぜひ、お願いします!」



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