マサカズ:「・・・では、君は本当に俺の妹に当たるわけか・・・」

認めざるをえなかった。
彼女の話はとても嘘とは思えないほど現実性があったのだ。
バイオハザードが起きた後に調べたメンデルに置かれたレポートなどを見せられては誤魔化しているとは思えなかった。
後は、血を調べれば分かるだろうが、ここまで証拠が挙がっているなら調べる必要はないだろう。
しかし、疑問は残る。
どうして、自分が兄だということが分かったかということ。

ウズミ:「ミラ、君はどうしてマサカズが自分の兄だと分かったのかね?」

ミラ:「それは・・・勘です。お母さんが私を見つけた時も、すれ違っただけで、分かったと聞いてます」

勘と聞いて、マサカズは他にも何かあると感じた。
勘だけで分かるとはあまりにもおかしすぎる。
それとも、本当に超能力や直感の類での奇跡なのかもしれないが。
ウズミの次はサユリがたずねる。

サユリ:「ミラちゃん、お母さんって何歳なの?」

ミラ:「コズミック・イラ45年だから・・・今年で26歳ってところかしら」



「PHASE−15 血縁者との遭遇 Bパート」





その発言はミラを除く全員が驚いた。
マサカズは今年で16歳。
だが、彼の母親は今年で26歳。
わずか10歳しか違わないのだ。
ナチュラル、たとえコーディネーターと言えど、普通では考えられない事例だ。
人工子宮という理由を知らなければ、一体何があった?と疑われてもおかしくはない。

ウズミ:「マサカズ、犯罪だな」

マサカズ:「ちょっ、まっ!それをウズミ様が言ってどうするんですか!?」

予想外の言葉に本当に動揺するマサカズ。
その様子を見たミラ達はクスクス笑っていた。

ミラ:「お兄ちゃんもお母さんに会ってみる?綺麗だし、それにお母さん、会いたがっていたよ」

そう聞いて、マサカズの肩が震えた。
自分の母親に会える。
その思いがマサカズの心からわきあがる。
しかし、素直に喜べなかった。
母親に会うということは、横に居るウズミを裏切る事ともいえるからだ。
今の自分にとっての家族は育ての父であるウズミ、血は繋がっていないが誕生日の関係から妹に当たるカガリなのだから。

ウズミ:「マサカズ、お前は私の子であり、カガリの兄である。だが、お前はミラの兄でもあり、彼女の子であるということに変わりはない。だから、会っても良いのだぞ?お前の本当の母親に」

彼の気持ちを悟ったウズミはそう告げる。
だが、マサカズはすぐに会いに行くとは言えなかった。
気持ちの整理がつかないのだ。
だから、いきなりお兄ちゃんと言われても実感がわかないのだ。

ウズミ:「マサカズ、今からお前に任務を与える。それはお前の母親に会いに行く事だ。なお、この任務を遂行しなかった場合、私はお前を勘当する」

マサカズ:「ウズミ様・・・・・・」

彼の心を読み取ったウズミは命令を下した。
これならば、彼は絶対に会いに行くと思ったから、ウズミはこの命令を出した。
せっかく母親に会えるというチャンスが来たのだ。
会ってほしいという気持ちはウズミにもあった。
静寂がしばし流れた後、マサカズは任務を引き受けるかどうかを言った。

マサカズ:「任務了解。マサカズ・ライモートは自らの母親に会いに行く任務を遂行します」

そう聞いたミラは、マサカズに抱きついた。
放せ、という彼の言葉を無視して、ミラは抱き続ける。
母親に会うだけなのだが、彼女は嬉しかったのだ。

ミラ:「ありがとう、お父さん」

抱き終わった後、ミラはウズミに対して言った。
そう言われたウズミは照れくさそうに誤魔化すのだった。


翌日、マサカズは母親に会いに行った。
そして、家の近くまで来るとミラと別れ、一人で彼女の家へと向かった。
ミラは行く所があるらしく、どこかへ行ってしまったのである。
おそらく気をきかせてくれたのだろう。
そのようにマサカズは自己解釈した。
事情はすでにミラから説明されており、向こうも今日マサカズが家へ行くことも知っている。
意を決して、彼は一人で家の敷地内に入ろうとすると、玄関のドアが開く。
待っていたのは、20代半ばの女性だった。
その女性はマサカズに駆け寄り、そして、彼を抱きしめる。

カナエ:「マサカズ、会いたかった・・・」

マサカズ:「・・・母さん、俺も会いたかった」

二人はしばらく抱擁していた。
抱擁が終了すると、何故マサカズが血縁者だと思ったかについての話となった。
話を聞けば、最初に感じ取ったのは家族でテレビを見ていたときらしい。
このルヴィックスで、オーブの特集をしていたらしく、番組中でマサカズの姿が映った時にカナエの勘とミラの勘が感じたとのこと。
それから、ミラとカナエの兄であるドラーガはマサカズの行方を調べ、このルヴィックスへ来ている事を知った。
後のことはマサカズとミラが出会ったと言うわけである。

マサカズ:「だとしたら、ミラと母さんの勘は凄いな。俺にはそんな力持っていないのに」

カナエ:「それはたぶん、あなたが父親の方を深く受け継いでいるからだと思うわ。予定では私の目が受け継がれるはずだったのに、あなたの目の色は父親に瓜二つよ」

そう聞き、マサカズの表情は曇る。
母親は居るが、本当の父親はここには居ない。
カナエによると現在は行方不明らしく、ミラも会った事がないらしい。

マサカズ:「あのさ、母さん・・・俺の父親ってどんな人だった?」

カナエ:「そうねぇ・・・いつもどこか遠くを見ていたわね。とにかく変な人よ。そういえば、あなたが生まれたばかりの時に妙な事を言っていたわ。確か『あれだけは渡しておかなければ』とか?」

聞いている方も意味が分からなかった。
自分には何かがあるのだろう。
しかし、マサカズはそんな事を気にしている場合ではなかった。
時間が迫っていたのだ。
部隊のリーダーが遅れては話にならない。

マサカズ:「では、母さん。私はこれで・・・」

カナエ:「ええ、また来てね。いつでも待っているから。それと、これからもミラと仲良くしてね」

この会話を最後にマサカズは車を飛ばして、港へと向かった。
そして、時間ギリギリに何とかフツノミタマのブリッジにたどり着く。

一同:「おかえり!」

ただいまとマサカズは返す。
しかし、よく見れば明らかに人数がおかしい。
一人増えているのだ。
ブリッジを見渡して、彼はついに気づいた。

マサカズ:「ミラ!どうしてここに・・・!」

ミラ:「だって、お兄ちゃんと一緒に居たいんだもん!」

今すぐ帰れ!と彼は吠える。
が、もうすでに発進状態となっており、ここまで来てキャンセルするわけにもいかなかった。
となれば、彼の文句を言う対象はミラを除くメンバーとなる。

マサカズ:「みんな、これはどういうことだ!?」

サユリ:「実は昨日に女同士で会話した時に、そんな話題になって・・・」

マイ:「で、勢いに乗って私達のところへ来ないって言ったら・・・」

デオム:「本当にミラはここへ来た。ということだ。言っておくが、ミラのことはクルーのみんなも歓迎しているんだ。それにウズミ様からもよろしく頼むと言われてある。だから、追い出そうなんてするなよ?」

それを聞き、マサカズからため息がこぼれる。
色々な意味で呆れたのだ。
ため息を吐いた後、彼の表情は変わった。
決意に満ちた表情へと。

マサカズ:「はいはい、分かった。みんな、改めて紹介する。俺の妹のミラだ」

ミラ:「ミラ・ライモートです。よろしくお願いします」

ブリッジは拍手に溢れた。
だが、ミラの発言に驚いたのが約1名。 その1名とはマサカズだ。

マサカズ:「ミラ、お前・・・」

彼は言いたかった。
何故、ライモートと名乗ったかを。
この名は自分が作った偽名。
もしかしたら、どこかに居るかもしれないが、それはまず考えられない。
ライは嘘、モートは死を意味する。
ファミリーネームとしては当然だが、とてもオーブ5大氏族やアスハ家の関係者とは思えない名だ。
だからこそ、この名を持った。
たとえ、守るべきものを守るために自分の手が血でいくら汚れようとも戦おうと、嘘をつき、人を殺そうとも。
今の道は、アスハの名を捨ててまで、選び取った道なのだから。

デオム:「マサカズ、雑談をしたい気持ちは分かるが、それをする前に目を通す資料が山ほどあるはずだろう?大体、進路はどの方向だ?」

マサカズ:「ああ、とりあえずはユニウスセブンの方に頼む。ロウ達、ジャンク屋連中じゃないが、あのデブリの中にもしかしたら使えるMSがあるかもしれない」

彼女とはまたゆっくり話す時間を持とう。
そう決めると、彼は準備をするために自分の部屋へと向かう。
だが、部屋の中へ入った瞬間、彼は驚愕した。
部屋が劇的にリフォームされている。
ビフォーとアフターでは大違いなまでに。
しかも、ベッドが増えているではないか。
まさかと思い彼はすぐに隠し部屋を確認する。
隠し部屋には彼の今までの任務に関する事やMSなどのディスクやデータが置かれている。
ここはサユリなどにも教えていない部屋だ。
当然ながらここへの入り方も彼しか知らないだろうと彼は思っていた。
しかし、マサカズは誰かがここを見ていたことを知っていた。
この部屋は開ける度に携帯へ連絡が入るようになっているのだ。
少し前にここが開いていることをマサカズは気づいていたのである。
ここを開けた人物についても。
それも確認するべく、部屋への道を開けた。
確認する限りは特に変化は見られなかった。
それにひと安心するマサカズだが、やはり、あまりの部屋の変貌ぶりに驚いていてしまう。
ふとテーブルへと目をやるとメモが書き残されていた。

マサカズ:「えっと、なになに・・・―お兄ちゃんはシスコンって聞いたから、部屋を改造してみました。私自身、ここの部屋で暮らそうと思っています。今まで会えなかった分をここで取り戻してみます。だから、文句を言わないでね、お兄ちゃん―・・・誰がシスコンだっ!お前の方がブラコンじゃねえか!」

この後、誰も居ないこの部屋で彼は叫び続けていたという。
何故、今頃になって妹が出てきたのか、俺はコンプレックス野郎か、などと叫んでいたことは彼のみが知っている。






END
NEXT「PHASE−16 兵器としての在り方 Aパート」