デオム:「おかえり、どうだったんだ?」
マサカズ:「何とか抑えられたというところだな。だが、傍から見ればオーブ全体でやったとしか見えないからな・・・」
プラントから帰還したマサカズは事の経緯を話した。
もちろん、その上で自分達のこれからの行動を決定しなければならない。
現在、彼らが所属するオーブは中立国だ。
しかし、自分達の部隊は中立が故に地球軍にもザフト軍にも味方し、敵対しているという状態だ。
その関係がいつ破られるかは、もはや時間の問題とも言える。
今、オーブが攻められれば、勝てる保障はないだろう。
だからこそ下手にオーブと他国との状況悪化をさせない。
それが彼らの最優先事項とも言えた。
マサカズ:「・・・・・・。しかし、その前に補給が必要だな。ここからなら・・・ルヴィックスへ向かうのが妥当か」
ルヴィックスとは中立コロニーの国家である。
宇宙開発が進んでいるコロニーで、調査の為に火星などに向け、艦などを送り出したりしている。
中立であるが、廃墟コロニーの中に混じっているため、世界的に知名度は高くない。
しかし、敵ではないと認められさえすれば、補給してくれるので、戦いなどにおいて重要な拠点のコロニーであると言える。
キール:「なるほど。ルヴィックスへ向かって、任務を終えたマイを回収し、その上で補給。さらに、クルーに休日を与えるという考えだな」
マサカズ:「まあ、そんなところだ。休日は頭になかったが、1日くらいはいいだろう。よし、デオム。進路は中立国家ルヴィックスへ」
「PHASE−15 血縁者との遭遇 Aパート」
マサカズ:「ウズミ様、ご無事で何よりです」
ウズミ:「マイがしっかり、護衛してくれたからな」
ルヴィックスのレストランで会話を交わす二人。
互いにワインを飲みながら、話は進み時間は静かに流れた。
貸し切りであるため、レストランで働く者や関係者以外はここに居ない。
今回、ウズミはルヴィックスで、ある条約についての会談を行いに来た。
何日もかかるため、彼の護衛にマサカズは、オーブ軍特殊01部隊副隊長であるマイ・ミズタカを選んだのである。
そのマイは隣のテーブルでサユリと会話を交わしていた。
サユリ:「それでね、マサね・・・」
マイ:「本当?やっぱりマサらしいね」
自分の事を会話されているのが分かり、ため息をつくマサカズ。
一方でウズミは食事を取っている。
なので、マサカズも食事に手をつけようとしたとき、ウズミから質問された。
ウズミ:「そういえば、例のプロジェクトはどうなっている?」
彼がたずねたのは極秘に進まれている計画についてである。
本当にごく一部の者しか知らされていない。
それは多大なる資金を要するため、知られると大変な事になるからである。
計画にかかる資金は今量産されているM1アストレイが20機以上造れるほどの莫大な資金がかかるのである。
マサカズ:「イリアン達によると、例の物はある程度は完成してきたそうです。後、数ヶ月は必要かと。しかし、どうしても資金の面が・・・」
やはり、問題はそれかとウズミは呟く。
これが最大の問題点であるとしか言いようがなかった。
オーブ軍特殊01部隊は依頼の完了後に報酬を受ける。
これは傭兵部隊に近いと言えば近いが、根本的な目的は傭兵達とは違う。
その目的もあり、資金も稼いでいるのだが、部隊での運用なども含めると厳しいと言うのは言うまでもない。
資金面を考えていたマサカズだが、ふとカガリの事を思い出し、ウズミにたずねた。
マサカズ:「ウズミ様、そういえばカガリは?」
ウズミ:「あいつなら、キサカの故郷に向かった。カガリはまだ世界を知らない。いずれ、政治の指導者となるのなら、このような経験もする必要があるだろう」
カガリがキサカの故郷に向かった?
彼はその話を聞き、妙な胸騒ぎがした。
今、キサカの故郷であるアフリカはザフトの勢力圏内である。
そこにはザフトの英雄であり、砂漠の虎の異名を持つアンドリュー・バルトフェルドが指揮をとっている危険な場所なのだ。
その事を聞いてマサカズは思わず立った。
マサカズ:「しかし、ウズミ様!それは・・・」
続けようとしたが、言葉に詰まる。
本当はその先の言葉を言いたかったが言えなかった。
そんな危険な場所に軍人ではないカガリが向かうのは死亡行為と言ってもいい。
しかも、カガリはウズミの子供なのだ。
ウズミ:「私とて、もしもの覚悟は出来ている。でなければお前をあの年齢で戦場に送りださん。しかし、今のあいつに必要なのは、少しでも世界を知ることだ。これからの世界に必要な人間となるために。それにキサカが一緒なのだから、安心するべきだと思うぞ?」
それはマサカズ自身も分かっていた。
キサカは自分やカガリの素性を知っていても、変わらず接してくれる数少ない人物だ。
軍人としても一佐(=大佐)の階級を持っているので、腕は確かである。
とはいえ、彼はカガリが心配だった。
もしものことがないとは、言い切れないからだ。
ウズミ:「それより詳しく聞きたい事がある。例のヘリオポリスのMSの件についてだ。お前は・・・」
??:「見つけた!」
その声にウズミとマサカズは振り向いた。
声から判断して、女性。
もちろん、立っているのも女性だ。
見る限りは若い。
年齢は15歳前後と思われる容姿だ。
髪型はツインテールというところだろうか。
しかし、人は見かけによるものではない。
ウズミの命を狙う人物という事も十分有りえるからだ。
マサカズはすぐに立ち上がり、ウズミの前に、つまり少女の前に立ちはだかった。
彼、ウズミを自分の父親を守るのが、今の自分の仕事だからだ。
マサカズ:「お前は何者だ?ウズミ様の用件があるのならば、即座に言ってもらおう」
ミラ:「私?私の名前はミラ。会うのは初めてだよね?お・兄・ち・ゃ・ん」
この場に居た者が、その言葉を聞き逃すはずはなかった。
お兄ちゃんという単語を。
この発言にはウズミですら、沈黙させた。
やがて、この単語を理解したマイとサユリがマサカズの横に立った。
明らかに聞き捨てならない単語である。
マサカズ:『お兄ちゃん・・・だと?俺を油断させる罠か?』
彼はすぐに銃が出せるように右手の位置を変えた。
そして、いつでも出せるように銃を握る。
この状況ならば敵という可能性も否定できない。
横に立っている二人にも油断しないよう伝えようとするが、彼女らの関心は別の事に向いていた。
サユリ:「マサ、どういうこと!?あなたにそんな趣味があったなんて・・・」
マイ:「私も知らなかったわ。まさか、うちのリーダーが・・・ロリコンだなんて」
マサカズ:「違う!誤解だ、誤解!俺はミラなんて知らない!」
ロリコン(=ロリータコンプレックスの略)という言葉まで出されて、必死に反論するマサカズ。
だが、必死になればなるほど、怪しまれる。
彼には全く身に覚えがなかった。
まず、妹で彼が思い当たるのはカガリだ。
しかし、カガリは先程ウズミと話していたように、アフリカにいる。
それに声はいくらなんでもここまで変える事は無理だ。
なら、次に思い浮かぶのはやはり敵であるということだろう。
マイ:「じゃあ・・・、彼女はリインフォースマンってこと?」
マサカズ:「なるほど。それなら記憶を書き換えられたということも・・・」
リインフォースマンとは強化人間の名称である。
マイは以前に強化人間とも戦闘経験があり、その可能性があるのではないかと話しだした。
彼女の発言により、サユリにもアイコンタクトでより勝手に彼らの中でまとまり始めた。
ミラという人物は強化人間だと言う方向で。
その状況に焦るミラ。
私は強化人間じゃない、と必死に叫んでいる。
どうやら、強化人間と疑われるのは相当嫌なようだ。
ウズミ:「落ち付け皆よ。マサカズ、話しだけでも聞いてみるのはどうだ?サユリもマイも判断はそれからでも遅くはなかろう?」
彼の発言に4人が驚いた。
4人とは、マサカズ、サユリ、マイ、それにミラだ。
相手がオーブの代表という事もあり、逆らえないため、大人しくマサカズらは指示に従った。
もちろん、ミラもウズミに従い、全員が同じテーブルに座る。
そして、気を取り直してマサカズがミラに生年月日をたずねる。
マサカズ:「で、ミラ・・・だったか。君、生まれは?」
ミラ:「コズミック・イラ57年10月10日、コロニーメンデルよ」
この発言にウズミ以外の3人が驚いた。
コロニーメンデルという場所が出たという事は、明らかな関係者を意味する。
驚かなかったウズミはある程度、予測していたようだった。