サキート:「金は成功してから払おう」
傭兵1:「いいだろう。しかし、たった1隻の船相手に俺達を雇うとは余程厄介な連中なんだろうな」
サキート:「・・・そうだな。厄介だから、お前達に頼んでいる。後日、合流地点で合流した後に襲撃する」
傭兵達はそのやり取りをするとその場を去った。
一人になり、物思いにふけるサキート。
彼はフツノミタマという戦艦を襲撃するべく、傭兵達を雇った。
この戦艦はオーブ軍特殊01部隊の艦だ。
彼にとって、マサカズの所属しているオーブ軍特殊01部隊は、憎い存在の何物でもなかった。
「PHASE−14 野望を秘めて Aパート」
サキートらのやりとりなど知らないフツノミタマのクルー達。
特に戦闘関係の仕事のない彼らはリラックスしていた。
キール:「休める時に休む。それもパイロットの仕事とは言っていたが・・・暇だなぁ」
自分の部屋でリラックスしていたキールは呟いた。
現在、フツノミタマに居る者達は仕事がない。
つまりは休日だ。
軍人、特にこの部隊は基本的に休みが安定しないので、喜ばしいことではある。
デオム:「暇ならば、体でも鍛えたらどうだ?」
キール:「おいっ!人の部屋に勝手に入るな!」
突然の声に驚き、キールは扉の方へと目をやる。
そこにはデオムが居た。
彼はフツノミタマの艦長であり、マサカズとマイの居ない時のリーダーに当たる人物だ。
二人は現在、仕事中でありフツノミタマには隊長も副隊長も居ないという状態なのである。
デオム:「堅いこと言うな。あいつらなら、きっと体でも鍛えているぞ?」
キール:「あのなぁ、ここは軍隊であって、軍隊でないようなもんなんだし、命令するな。大体、俺はマサカズのようなコーディネイターでもないし、マイのような強いナチュラルではないんですぅ!」
この部隊の変わっている点はあまり階級を気にしない事だ。
本来、軍人と言うのは上級階級の人には言葉に気をつける必要があるのだが、ここではいわゆるタメ口が許されている。
命令と言っても基本的にマサカズから下るくらいで、それ以外は特に自由が許されている。
任務中でも、最終的に個人の判断に任せているのも不思議だ。
さらに言えば隊長と副隊長も奇妙といえば奇妙だった。
隊長はマサカズ。
彼はコーディネイターだ。
コーディネイターである彼が何故、アスハ家陣営の中心に居るのかはキールも分からないが、実力は本物だった。
だが、副隊長はマイ。
彼女はコーディネイターではなく、ナチュラルだ。
オーブ軍としてはナチュラルの隊長が多いのではあるが、隊長がコーディネイター、副隊長がナチュラルと言うのは珍しいパターンだった。
さらに言えばマイは名前から推測できるように女性だ。
だから余計に珍しいのである。
しかし、副隊長の腕は確かで、コーディネイターであるキールと組手をするとキールが1分経たずギブアップするのである。
デオム:「別に命令しているわけではないさ。それより、やることがないならブリッジで情報の整理をしないか?」
キール:「そうだな。せめて、あいつが来るまでにそれくらいの情報整理はしておくか」
話はまとまり、二人はブリッジへと向かった。
彼らは仕事がないときは、このように情報整理をしていたり、寝ていたりすることが多い。
この部隊にとって重要なのは情報である。
そのため、色々な情報屋から情報をもらうことも少なくない。
レミーナ:「デオムはそんな奴を呼びに行っていたわけ?」
サユリ:「そんなことしている暇があるんなら、ここに居て情報整理してくれた方が助かったのに・・・」
キール:「あなた達は俺をどのように思っているんですか!」
彼の扱いが少々酷いのは新人だからである。
元々、この部隊はマサカズが作った部隊とも言えるため、年齢が近いものが多い。
キール:「全く・・・そういえばオレンドはまだ帰って来ないのか?」
レミーナ:「オレンドだったら、確か、今日の遅くに帰還するはずだけど・・・」
話題に出ているオレンドというのはこの部隊の最年長者だ。
37歳で現役のMSパイロットを務めている。
この年齢のもなればMSに乗る方が少ない。
実力はナチュラルでありながら高く、マサカズが一目置いているので確かである。
サユリ:「でも、この状況で襲撃されたらまずいわよね?」
彼女の発言に情報整理していたみんなが固まった。
この部隊はMSの操縦も上手い者は任務も多く、マサカズ、マイ、オレンド達と言った優秀な者達が不在であるこの状況。
そこへ襲撃されたら危ういのは確かだった。
一応、キールはMSパイロットではあるが、現在この船にあるMSは1機。
しかも、それは回収できたPX−02。
ロウ・ギュールが見たら、このように名付けるだろう。
マゼンタフレームと。
しかし、このMSは当初から基本パイロットをマイとして想定されており、マイ以外には扱いが難しい状態だ。
もし扱えるとしても、OSの調整に時間がかかるのは確かであった。
デオム:「確かに・・・な。サユリはPX−02のOS調整に向かってくれ。キールとレミーナは情報整理を。俺は第二戦闘配備へ移行の準備を行う」
*
サキート:「貴様ら、何をしていた?遅刻だぞ?」
傭兵2:「仕方ねえだろ?大体、遅刻つってもほんの数秒じゃないか!」
彼らはとある場所で合流していた。
しかし、そうは言ってもMSでの合流である。
これから彼らは襲撃するのだから当然と言えば当然だ。
サキート:「遅刻は遅刻だ。報酬は5%引かせてもらおう。本当は10%と言いたいが、さすがに10%は可哀想だからな」
この辺はサキートの特徴だ。
少々、神経質なのが問題ではあるが、見方を変えれば優秀な点でもある。
傭兵1:「文句を言いたいところだが、また報酬を下げられては・・・な。よし、目的地へ移動するぞ!」
傭兵3人とサキートはオーブ軍特殊01部隊を襲撃するべく、移動を開始した。
彼らの行く先を予測し、待ち伏せをするのだ。
そして、通ろうと来た時に襲撃を行う。
これが作戦の簡単な要約だ。
本当は詳しい詳細があるのだが、サキートにより事細かに決められているため、省く。
傭兵3:「ところで何故、今日なんだ?」
サキート:「それは今日ならば、連中は浮かれているはずだからだ」
オーブ軍特殊01部隊は現在、隊長も副隊長も居ない。
そうなれば、狙うのは当然だ。
さらに今日は仲間の一人が帰還する日でもある。
ということは仲間が帰ってくると言うことで、警戒していてもいつもより浮かれている可能性の方が高いのだ。
その仲間は確かに実力はあるが、4機を一気に相手できるほどの力はない。
帰還するにしても時間は今日の遅く。
もしも帰還してきたとしても、前述のように大勢を相手にする力はないはずだ。
などとサキートは考慮した上で日にちと時間を選んだのであった。
サキート:『マサカズ、貴様が来る頃には仲間が居ないかもしれんぞ・・・』
やがて、目的地にたどり着いた彼らはタイミングを待った。
敵を襲撃するタイミングを。
サキート:「貴様ら、そろそろバッテリーを入れ替えておけ。もう来るはずだ」
本来MSというのは近くに母艦があってこそ戦闘能力は生かされる。
何故なら、バッテリーという問題があるからだ。
戦闘中にバッテリーを自分自身で入れ替えるのは至難の業であり、もし行うにしても大きな隙が出来る。
だからこそサキートはバッテリーの準備をさせていた。
母艦を当てにしていては、フツノミタマは落とせないからである。
丁度、バッテリーを入れ替えた頃、フツノミタマはレーダーに現れた。
それを見たサキートは合図をし、ついに襲撃は開始された。
レミーナ:「!?レーダーにMSを感知!4機・・・そのうちの1機はPX−04を確認!」
その言葉にブリッジに衝撃が走った。
突然の襲撃に加え、PX−04の登場。
これは乗っている人物がサキートであることを示していた。
デオム:「奴め!あいつが居ないことを知っていながら仕掛けてくるとは!レミーナ、通信をPX−02へ!サユリ、出撃できるか!?」
サユリ:「待って!出撃しようにも今、調整中よ!あと数分あれば完全に終わるわ!」
キール:「だったら、俺が時間を稼ぐ!メビウスなら出せるはずだ!」
時間を稼ぐと言いきったキールはブリッジを離れた。
スーツを着ている時間はないため、直接格納庫へと向かった。
だが、問題はキールが出撃するまでの時間をどうやって稼ぐかだった。
敵は4機。
一気に接近し、包囲されれば、艦は沈む。
デオム:「バルカン撃てっー!!」
サキート:「バルカンと言えど、当たらなければ無意味にすぎない!貴様ら、バルカンを回避後、あの艦に取りつくぞ!」
フツノミタマからほぼ全方向に放たれるバルカン。
そのバルカンを回避しつつ、フツノミタマへ接近する傭兵達。
リーダー格であるサキートは囮役となって注意をそらしていた。
デオム:「仕方あるまい!バレルロールを行う!同時に全てのバルカンを放て!とにかく敵機を近づけさせるな!」
彼の指示によりバレルロールのコードが入力される。
この艦は人出が少ないため、艦の操縦も基本的にコンピューターに任せている。
もちろん、状況によってはAAのような操縦も出来るのだが、それをしている時間はなかった。
そして、バレルロールは行われた。
何も聞いていないクルー達は当然の如く、驚くしか出来なかった。
通常、艦でバレルロールというのは至難の業であり、突然のバレルロールは内部にも支障が起きやすく、滅多に使用されない。
サキート:「この状況でバレルロールだと?間違った選択にも程があるな。本当に艦長命令か?まあ、いい。貴様ら、ジンのサーベルで今から送るポイントを狙え!」
素早くキーボードを動かすとジン3機にある座標を送った。
それはフツノミタマのブリッジ上部であった。
フツノミタマの最大の特徴は外部装甲とブリッジが中央にあることだ。
ブリッジが中央にある理由は最も攻撃しづらい位置にあることが由来する。
だが、これでは周辺が見えない。
そこで出るのが外部装甲なのである。
この外部装甲はいわゆるシェルターレベルの防御力を誇り、数ヶ所にはカメラが付いている。
しかし、この外部装甲は防御力を高める代わりに攻撃手段を少なくすることになってしまった。
本来ならミサイルを使う状況でもバルカンしか放てないのだ。
それらのことを事前に知っていたサキートは弱点を狙うよう仕向けたのである。
レミーナ:「ジン3機がブリッジ上部へ接近!」
デオム:「(いくら外部装甲は防御力があるとはいえ・・・ならば)レミーナ、艦のブースターをチャージ!俺のタイミングと同時に上方へ最大千速だ!」
動きが鈍くなるフツノミタマ。
それを見た傭兵達はジンをさらに加速させ、艦へ接近する。
傭兵1:「もらったぁ!」
デオム:「今だ!同時にキールを出撃させるぞ!」