ロウ:「くそっ!マジなのか!?」

彼は焦っていた。
焦っているという状況ではないのかもしれない。
今、彼はアストレイに乗って戦闘をしている。
ナチュラルである彼がMSを操作しているのは、ハチという疑似人格を搭載したコンピューターがサポートしているからだ。
そのため、ロウに要求されるのはMSの操作に最低限必要なことくらいだ。

劾:「・・・・・・」

ジャンク屋であるロウを攻撃しているのは叢雲劾。
傭兵部隊サーペントテールのリーダーだ。
彼ら傭兵は依頼を受けて、その依頼を遂行する。
ということは、現在劾は依頼を遂行中ということになる。

ロウ:「くそっ!戦うしかないのかよっ!」






「PHASE−11 対決!アストレイ対アストレイ Aパート」



彼らが戦うことになる数時間前。
ジャンク屋のロウ達はアルテミス陥落の一報を聞いた。
3日前に陥落したらしく、宇宙ではすでに多くの者が知っているだろう。

ロウ:「意外にあっけなかったなあ」

アルテミスは攻略法がないと言われるほど、堅い守りに覆われていた。
それは通称“アルテミスの傘”と呼ばれる光波防御帯があったからである。
しかし、ザフトの攻撃が原因となり陥落。
それが地球軍で造られたMSによってアルテミスは落ちたため、何とも皮肉な話である。

リーアム:「アルテミスは“傘”がなければ全くの無防備です。あの要塞から光波防御帯が無くなれば、鉄壁の守りではなく、それはただの的ですからね」

キサト:「じゃあさ、今頃は海賊とか来ちゃって大変ね。アルテミスって支配者気取りでやりたい放題だったし・・・」

傘を武器にしていたアルテミスは悪事を働いていた。
その宙域を通る際には多額の通行料を請求したのである。
もしそれを払わなかった場合、攻撃をしたりとやりたい放題。
払うにしても多額であるため、恨みを持つ者は多く、特に海賊達の目の敵にされていた。
現在、傘がないのであれば、仕返しをするのに絶好のチャンス。
これでは襲撃されて当然だ。

プロフェッサー:「いや、そうでも無いみたいよ。海賊達が集まって来たのは確かだけど、ほとんど撃退されてるみたね。救難信号が数え切れないほどあるわ」

確かに妙だ。
アルテミスの戦闘力などたかが知れている。
海賊達の中にはMSを持つ者も多いため、撃退するのは至難の業だ。
怪しいとにらむリーアム。
近づかない方がいいと叫ぶキサト。
好奇心旺盛なロウは判断を下す。

ロウ:「いや、ガゼン行く気になったぜっ!」

目をキラキラ輝かせるロウ。
彼の言い分が述べられる。

ロウ:「どうやって“傘”なしに戦っているのかを知りたいじゃんかよ!それにやられた連中に補修パーツを売れるぜ!これで金もうけ出来るだろ?なぁ、リーアム!」

リーアム:「まあ、多少気になる点があるのは認めます」

この意見にプロフェッサーも賛成。
さらにはハチまでも賛成したらしく、画面に賛成という字が写っている。
やっぱりと呟くキサトをよそに進路はアルテミス宙域へと向かうことになった。


ロウ:「凄いな・・・。どの船もエンジン部をやられているな・・・」

攻撃される危険性があるため、ロウはレッドフレームに乗って周辺を調べていた。
当然ながら、ハチも一緒だ。
周辺を調べていると、レッドフレームのレーダーとハチから警告音が鳴った。
接近する物体があるらしい。
アルテミスから出撃される2機のMS。
そのうちの1機がこちらへ近づいていた。
近づいて来るうちに、ハチに敵MSの名が表示される。
“BLUE FRAME”と。

ロウ:「ブルーフレームだと!?それじゃあ、傭兵の劾なのかっ!?」

現れたのはブルーフレームアストレイ。
傭兵である劾が所有するMSだ。
しかも、目に見える限り、アストレイの基本装備ではない。
ミサイルやらバズーカやら色々と装備されているのだ。
劾に確かめるため、ロウは通信回線をつないだ。

ロウ:「まさか、こんなに早い再会だとはな。しかもその装備は歓迎してくれてる訳じゃなさそうだな」

劾:「それはお前次第だ。ジャンク屋ロウ・ギュール」

ロウ:「そうか・・・。そういや、あのジンに乗っている仲間はどうした?」

劾:「イライジャなら、アルテミスに居る。ジンの方は別の海賊へ迎撃に向かった」

少し訳が分からなかった。
それはまるでイライジャという奴とMSが別行動しているような言い方だ。
何かあったのだろうか?
しかし、疑問を考えている状況ではなかった。
ある程度、話し終わると、劾から警告の通信が送られた。

劾:「警告する。ただちにこの宙域から離れろ!離れない場合、敵対行動と見なし、攻撃を開始する!!」

おそらくこれは最初で最後の警告。
それはロウにも理解できていた。
劾は冗談を言うような男ではないと知っているから。
しかし、ロウの答えは決まっている。

ロウ:「やはりこれはお前の仕業で今回のクライアント(依頼者)はアルテミスか・・・。悪いけどな、俺はここから離れる気はないぜ!お前もお前なりの仕事があるだろうが、俺も俺の仕事をしたいんでな。アンタにやられたこいつらを修理してやらないと・・・見殺しにはできねぇからな!」

黙ってロウの考えを聞く劾。
しかし、劾はすでに攻撃態勢に入っていた。
バズーカをロウのアストレイ、レッドフレームに向けたのである。
その頃、ブリッジではロウを案ずるキサトが叫んでいた。

キサト:「ロウのバカ!傭兵と戦って勝てる訳ないじゃん!」

リーアム:「そうですね。しかも相手はコーディネーター、戦闘のプロです」

冷静に分析するリーアム。
彼には劾が何故、海賊達を殺さないのか分かっていた。
それは威嚇の効果狙ったからだと。

プロフェッサー:「アルテミスからミサイルを確認したわ!」

突然のことに驚くキサト達。
驚いたのはロウ、そして劾もであった。
二機のアストレイの間をミサイルが通り、その先の海賊の船に直撃する。
他のミサイルも同じように海賊の船へ次々に当てていく。
ミサイルを避けられて一安心するロウ。
しかし、ハチにより、残りのミサイルがホームへ向かっていることに気づいた。
ほとんど攻撃手段、並びに防御手段を持たないホームは当たり所が悪ければ、大変なことになりかねない。
そう判断したロウはミサイルの群れの中央をホームに当たらない角度からビームで狙い撃った。
中央にあるミサイルを撃ち落とすことができれば、誘爆が起こるかもしれないからだ。
撃ち放たれたビームはミサイルの群れの中央にあるミサイルにヒット。
誘爆は起こり、ホームの危機は何とか脱出できた。

劾:「ガルシア、これはどういうつもりだ!?」

何も知らされずに行われた攻撃。
彼の疑問は当然ともいえる。
だからこそ、アルテミスの司令部へ通信を送った。

ガルシア:「未来の危険を取り除いただけだ。奴らを生かしておけば、またここを襲って来るかもしれないからだ。まあ、保険のようなものだよ」

あまりにも身勝手なガルシア。
何故、海賊を生かした理由を考えることができないのか?
と頭の中で嘆く劾。
しかし、下手に反論するわけにもいかなかった。

ガルシア:「さて、状況が理解できたのなら、仕事をしてもらおうか。目の前のMSを捕獲しろ。つい最近それと似たようなMSを手に入れ損ねてね・・・。どうしてもMSを欲しいと思っていたんだよ」

そう言いつつ、選択の余地はないという目をするガルシア。
従わざるをえない劾は、分かったと言い、通信を終えた。
ガルシアとの通信が終了してすぐにダーキンから通信が入る。
海賊との戦闘中だったが、アルテミスから発射されたミサイルにより、戦闘は終わったのだという。
話を聞いた彼は考えた。
これを逃したらイライジャ達を救う手だてはないのかもしれない。
そう思った劾は、ダーキンにあることを指示した。

ダーキン:「分かった・・・。大丈夫だとは思うが、気をつけろよ」

劾:「ああ、お前も健闘を祈る」

通信を終えると劾はバズーカを今一度、ロウへと向けた。
それはロウにも確認できた。
さらに先程までとは違い、ロックまでされている。

ロウ:「やる気かよ・・・!」

戦闘態勢を確認したロウはレバー等を強く握る。
これはもう避けられない戦いだと理解したからだ。
そして、バズーカが放たれる。
レッドフレームとブルーフレームの二機のアストレイの戦いの火ぶたは切って落とされた。



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