ガルシア:「う・・・う・・・・」
アルテミスからアークエンジェルが出港し、数時間後。
ユーラシアの宇宙要塞アルテミスは壊滅状態に近かった。
要塞自体は残っているのだが、中はひどい有様だった。
メビウスや戦艦の残骸が数多く、取り残されたままになっている。
ガルシア:「・・・私は・・・・」
彼、ガルシアの意識は少しずつ、戻り始めていた。
司令部にメビウスが直撃し、爆風が彼を襲ったものの、ガルシアは奇跡的に一命を取り留めた。
この司令部に居ながら、一命を取り留めたのはガルシアと数名の兵士だけ。
さらに怪我が少ないのはガルシアくらいである。
それ以外の者は皆死んでいる。
ガルシア:「くぅ・・・誰か・・・・ダークキングとサーペントテールを呼べ!」
「PHASE−10 傘のないアルテミス Aパート」
ピレンモ:「先生、ここよ」
ダーキン:「軍事要塞アルテミスか・・・」
アルテミスへ訪れる小型のシャトル。
そのシャトルに二人が乗っている。
一人は女性だ。
しかし、どこか子供らしさが感じられる。
もう一人は黒いコートをまとった男だ。
多少大きなカバンも持っている。
やがて、港にシャトルは着陸し、二人はガルシアの元へと向かった。
ダーキン:「あんたか?俺のサイトに依頼文を書き込んだのは」
ガルシア:「そうだ、ダークキング。すぐに動ける医者は君しかいなくてな」
黒いコートをまとった男、ダーキンは医者だった。
それも有名で、高い報酬を奪う無免許の医者でありながら、世界一の技術を持つ“黒い医者の王”、通称ダークキングと呼ばれている。
この通称は旧世紀に居たとされる黒い医者の再来という意味も同時に持っていた。
彼のサイトに依頼文が書き込まれる事で、彼はそれを確認し、依頼を受けるかどうかを決定する。
今回、彼は依頼を受けてアルテミスへ来たのだ。
ダーキン:「だが、俺に依頼をしたということは、それ相応の金額を払ってもらう事になるが?」
ガルシア:「それも承知した上で、だ。生きている者の手当てをして欲しい。もちろん、私の手当てもだ」
最初はダーキンも部下のためにそのように言ったのだと思った。
だが、明らかに顔の表情からはそう読み取れない。
手当てをしてそれなりに動けるようになったら、こき使おうという顔をしている。
どうやらガルシアは思っている事がすぐに顔に出るらしい。
とはいえ、依頼は依頼。
大人しくダーキンとピレンモは彼の言うとおりに依頼をこなしていく。
数時間をかけて、とりあえずは終了した。
ダーキン:「終わったぞ。しかし、これほどの有様でよく生きていられたな」
助けた者達から、被弾したメビウスが司令部を直撃したと聞く。
普通は助かるはずがない。
加えて、MS同士や新型艦の戦闘。
普通はまずこれほどの人数は助からない
生き残った中でもガルシアが大きな怪我をしていないのが不思議なくらいだ。
ダーキン:「では、約束どおり報酬を頂こうか」
ガルシア:「報酬だと?何を言っているのだ?ここにはそんな金はないぞ」
やはりだった。
ピレンモ達はこのようなことは仕事上、慣れているといえば慣れている。
彼らの求める金額は普通ではないのだから、そのような態度をするのはある意味当然と言わざるをえない。
しかし、ダーキン達は仕事を完了している。
なので、報酬を貰うのは当然の事だ。
または報酬に相当する代価を払ってくれなければ、商売として勤まらない。
ダーキン:「では、代わりに例の連合のMSのデータを頂こうか」
ガルシア:「残念ながら、データの吸出しが完了する前に逃げられてな、データなどないぞ」
もはや、話にならない。
無理矢理でも金目の物を探そうとダーキンとピレンモが、動こうとしていた時だった。
それぞれの後ろに人の気配を感じた。
しかも、軍の人間ではない。
さらに頭に銃を向けられている事が察知できた。
仕方がないので二人とも、両手を挙げる。
ガルシア:「来てくれたか!サーペントテール!」
司令室に訪れたのは劾とイライジャだった。
自分達だけではなかったのかと、考えるダーキン。
そして、何故彼らを呼んだのかも、考えた。
すると、すぐに答えは出てきた。
アルテミスの評判の悪さは異常だった。
通るだけでも通行料を取るたちの悪い要塞と知られているほどであったのだ。
そのアルテミスが堕ちたのであれば、海賊達や恨みを持つ者が狙いにきてもおかしくはない。
ならば、医者である自分以外にも戦える人間を呼ぶ必要があるのだ。
そう考えると、知名度、戦闘能力などから言えばサーペントテールを呼ぶのは妥当なのである。
キャリアもあり、その名を聞くだけで恐れる者も多いのだから。
劾:「ガルシアと言ったな。依頼を一応、引き受けよう」
ガルシア:「そうか、なら・・・」
依頼を引き受けるといった劾。
それに答えるガルシアは妙な行動を取った。
右手を挙げたのだ。
その行動を不思議に思うダーキン達。
しかし、答えはすぐに明らかになった。
イライジャ:「劾!」
劾:「イライジャ!」
兵士達がイライジャを取り押さえたのである。
彼を助けようと劾が動くが、すでに手遅れだった。
そして、同時にピレンモの叫び声が響いた。
ピレンモ:「先生!」
ダーキン:「ピレンモ!ガルシア、人質なら私でいい!ピレンモを開放しろ!」
それはイライジャと同じ状況となっていた。
これでは助けようにも助けられない。
何とか、ガルシアを説得しようとダーキンは試みる。
ガルシア:「無理な要求だな、ダークキング。お前達の仲間は我が手の中だ。彼らを救い出したければ、依頼通りに仕事をしてもらおうか。ダークキング、叢雲劾」
今、逆らうと確実に人質の命はない。
劾とダーキンはすぐに感じ取った。
状況が状況なので、二人はガルシアに従うしか、術はなかった。