イライジャとピレンモが人質となって、2時間が経過した頃。
アルテミスを狙う艦が司令部で確認された。
当然の如く、出撃命令が劾に出される。
依頼者であるガルシアに逆らうとイライジャの身が危ない。
そのことを理解しているから、従うしかないのだ。
劾は格納庫に向かう際に、ダーキンを呼ぶ。
ダーキン:「なんだ、叢雲劾?」
劾:「話がある。一緒に来てくれ」
「PHASE−10 傘のないアルテミス Bパート」
一緒に格納庫へと向かうダーキンと劾。
ある程度、司令部を離れた頃、劾は本題に入った。
劾:「今俺達は人質を取られた状態だ。俺は隙を見つけ、イライジャを救い出す。その時、お前はどうする?」
まるで、ダーキンやピレンモの身を案じているかの質問だった。
その質問に対し、ダーキンはすぐに答えを出した。
彼がその行動をした時、自分がどう行動するのかを。
ダーキン:「俺なら、その騒ぎに便乗し、ピレンモを救い出すな」
劾:「そうか。ならば、単刀直入に言う。俺に協力してくれないか?」
協力という言葉が出るなど、ダーキンには全く考えていなかった。
あの叢雲劾が自分に依頼するなど有りえないことなのだ。
しかし、それをするということは、人質にされた人物は彼にとって重要な人物である事を指す。
それはダーキンも同じ事。
ピレンモほど優秀な助手はおらず、艦でも重要な立場に居る。
加えて、彼女はダーキンにとって大事な人なのである。
ダーキン:「なるほどな。考えている事は俺と同じだろうから。で、今はどうしろと?」
劾:「お前はかつて、ザフト戦闘技術隊に所属していたと聞く。ならば」
ダーキン:「MSには乗れるはず、か。だから、この戦いに参加しろというわけか」
ザフト戦闘技術隊。
ある男女の命令により、集められた特殊部隊。
集められた者の共通点などは、部隊の外部には未だ明らかになっていない。
しかし、優秀な人材が多く集まっていたのは確かであり、ザフトでも伝説とまで言われているほどだ。
その理由の一つに現在のザフトのMSにおけるOSの基本モーションを確立したことが知られている。
ダーキン:「・・・いいだろう。まずはアルテミスを防衛しなければ、全てが泡になってしまうからな」
微笑みながら、彼は言った。
決意を新たに格納庫へ向かう二人。
しかし、到着したところで新たな問題が生じる。
劾:「どうした?乗らないのか?」
ダーキン:「簡単に言うが、コイツはお前の仲間のMSだろう?いいのか?」
それはMSが劾とイライジャの機体の2機しかないということ。
普通に考えれば、劾のMSではなく、もう1機の方へ乗るべきなのだが、やはり、人のMS。
乗ろうにも、ダーキンはどうしてもためらってしまう。
劾:「それ以外に乗るMSがあるわけではないはずだ。それに今は、時間がない」
スーツを着ずに乗り込む劾。
事態は一刻を争う。
それを見たダーキンも便乗し、イライジャのMSに乗り込む。
久々のMSのコックピットに高ぶるダーキン。
しかし、同時に恐怖心が彼を襲った。
彼は基本的に母艦には居ない。
世界中を駈けずり回っている事が多く、艦に居たとしても艦長としての仕事をこなしている。
なので、MSに乗るのは数年ぶりなのである。
劾:「ダーキン?ダーキン、どうした?」
ダーキン:「ああ、すまない。久しぶりにMSを動かすんで、ついつい感傷に慕っていただけだ。今から、出撃する」
その言葉を皮切りに、二人は出撃した。
アルテミスを、イライジャを、ピレンモを、守るために。
出撃してすぐにダーキンは劾へ通信をする。
ダーキン:「劾、この状況お前ならばどうする?」
この言葉。
実はダーキンは劾を試していた。
現在、アルテミスはバリアを張れない状態。
下手に様子を見ていたら、隙を突かれる。
となれば、今選ぶべき選択肢は限られている。
劾:「・・・俺を試しているのか?ここは素早く敵を排除するのが妥当だな。放っておいて、仲間を呼ばれたらこの戦力では勝ち目がない」
それを聞いたダーキンは笑みを浮かべた。
自分や優秀な劾と言えど、一騎当千と呼べるほどの能力は持っていない。
ただ、一人の人間であることには変わりがないのだ。
劾:「ダーキン、レーダーを見ろ。敵が確認できる」
彼の言う通り敵が確認できた。
どうやら、戦艦とMAが3機らしい。
これならば大して作戦を取る必要もない。
あるとすれば劾が気を付けろと言っていたことくらいだ。
それは出撃する前の事だ。
彼はダーキンにこう言った。
劾:『敵は破壊せずに戦闘不能に追い込め』
これはダーキンも賛同していた。
破壊せずに戦闘不能で残すという事は、アルテミスにはまだ戦えるだけの力があると思い知らせるためである。
言い方を変えれば、威嚇の効果が見込めるのだ。
ダーキン:「さっき、お前が言ったようにやれば言いのだろう?では、先に仕掛けるぞ」
ジンのスラスターを加速し、メビウス3機に近づくダーキン。
まさかのジンが確認され、敵側は驚きのあまり混乱していた。
地球軍の要塞からMSが出るとは、想像していなかったのだ。
この時、傭兵が雇われたとは彼らは考えもしなかった。
もっとも、ダーキンは傭兵ではなく、本業は医者なのだが。
ダーキン:「はああああああっ!」
MAメビウスの武装を手早く切り落とす。
武装さえなければ、メビウスは大して何も出来ない。
出来ても特攻だが、そんなことをするのは軍人くらい。
大体、アルテミスを攻撃するような連中が特攻をするはずはないのだ。
もちろん、これはあくまでダーキンの考えではあるが。
1機目を攻撃し終わると、2機目、3機目へと手をかけていく。
同じように武装を切り落とすだけだ。
普通のジンより、改造されたイライジャのジンは性能が高く、今回の戦闘には大いに役立った。
しかし、イライジャ専用にアレンジされているため、少々使いにくいのが問題だが、それはイライジャの機体であるので仕方がないことだ。
今回はMSを使えただけでも、ありがたいと思わなければいけないだろう。
それにダーキンはこの戦いである事を自覚した。
久しぶりのMS戦とはいえ、体が操縦を覚えているらしいということを。
ダーキンは自分の仕事が終わると、敵の母艦へ向かった。
すると、もうすでに劾がエンジン部にダメージを与えており、すぐには動けない状態だった。
劾:「ダーキン、そっちも仕事が終わったようだな。ならば帰還しよう」
ダーキン:「ああ、分かった」
そんな通信を終えるとアルテミスへと帰還する二人。
今、ガルシアに逆らえばイライジャとピレンモの命がない。
ここは大人しく機会を待つしかないのだ。
その機会がいつ訪れるかは分からない。
だが、その機会が訪れた時、人質を助け出す。
この思いが二人の心にあった。
END
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