「彼らの信念」
サキート:「アルテミスが落ちた?本当なのかギナ」
ギナ:「ああ、本当だ。それも昨日の出来事だ」
戦艦アメノオオバリのブリッジで、やり取りされる会話。
あのアルテミスが落ちたと聞いて、驚きを隠せないサキート。
アルテミスは宇宙要塞の中でも優秀な要塞に入るのだから仕方のない事だ。
サキート:「あいつは?あの男はこの事に関与しているのか?」
ミナ:「奴にはアルテミスが崩壊した時間にアリバイがある。その時間、奴はプラントに居た事が判明しているようだ。よって、奴自身は関与していないだろう」
話の中で奴、あいつと呼ばれる人物。
それは彼らの敵である者の事。
話を聞いたサキートは表情にも安心感が伺えた。
彼の表情を見たギナは言う。
ギナ:「サキート、いい加減あのクズをライバル視するのは止めろ」
そう聞いたサキートの表情は一変した。
彼、ギナの言った言葉は、逆鱗に触れるような内容であったのは間違いない。
すぐにサキートは反論する。
サキート:「違う!俺は奴をライバルなどと見ていないっ!奴を見ていると虫唾が走る。それこそ、ウズミよりずっと・・・!」
ミナ:「それがライバル視しているって事だ、サキート。お前は、お前自身が気づいていないうちに奴を憎しみの存在としてより、ライバルとして見てしまっている。自分より優秀である奴を」
サキート:「優秀?ミナ、いい加減にしろ。俺の方が優秀だ!俺は奴の5年前から自らの生まれを知っている!それに頭脳でも俺の方が上だっ!」
声を荒げるサキート。
余程、触れて欲しくない話題だったらしい。
その様子にため息をつきながら、最年長としてロイは口を開く。
ロイ:「サキート、気持ちは分かる。だが、お前は奴には徹底的・・・とは言い過ぎかもしれんが、奴には勝てん。奴とお前にはまず、立場と実戦経験で差がついている。お前は特尉だ。しかし、奴は軍の階級は大佐であるが、実際には将官クラスの権力を持っている。それに頭脳で勝ったかもしれんが、それは実戦で必要とは限らない。いくら知識があっても、実戦経験で養われた上で冷静な判断を下せなければ、無意味に等しい」
黙っていられなかったサキートはロイに掴みかかる。
掴んだのは胸倉。
ここから、彼は以前に話で聞いた事があるホクハ家の技を試みる。
ロイ:「遅いっ!」
技を繰り出そうとしたサキートにカウンターを入れるロイ。
カウンターを入れられたサキートはその場に倒れこんだ。
予想外の事に、何故だ?と呟くサキート。
追い討ちをかけるようにロイは言い放つ。
ロイ:「俺は言ったはずだ。戦場で必要とされるのは、高い知識だけではない。実践や経験で養われた知識の方が遥かに必要だ。お前は以前、話を聞いたホクハ家の技を試みようとした。一瞬の動きだったが、その技を見た事がある俺には分かる。だが、あまりにもぎこない動きだった。お前は話を聞き、知識はあったが、それを見たことはなかった。違うか?」
立ち上がり、「ああ」と話すサキート。
その表情は明らかに悔しがっている事が分かった。
ギナやミナは黙って、様子を見ている。
他のルイやオペレーター達も静かに見守っている。
正確にはあまりの迫力に動けないという表現が正しいのかもしれない。
ロイ:「それにお前は悲しみを知らない。だが、あの男は何度かあまりの悲しみに放心状態になっている。しかし、それが奴の原動力になっているはずだ。お前や我々が、信念があるように奴にも信念がある。奴の信念は揺るぎがたく、そして、強い。俺が思うにお前が、本当の意味で奴に勝つのは無理だろうな。たとえ、お前が奴を殺したとしても」
話し終わると、すぐにロイはブリッジを去った。
しばらくして、サキートもブリッジを去る。
静寂が流れるブリッジ。
それを破ったのはミナだった。
ミナ:「ロイの言った事はある意味で正しいのかもしれん・・・な」
ギナ:「しかし、我々はそれを認めるわけにはいかない。我々の障害の一つである奴が勝っているなど!最後に勝つのは私達、サハク家の者だ。それまでは、準備をしようじゃないか。全ては新生オーブのために!」
彼らは自ら掲げた目的と信念を再確認し、仕事に戻った。
ウズミ、カガリを始めとするアスハ家関係者をいつか地に落とし、自分達はその時、天に立つ。
その時が、新生オーブの誕生の日だと信じて、彼らは行動する。
サハク家直属の部隊、通称『オーブ軍特殊02部隊』として。
END