「プロローグ9 それぞれの生活」
ここはプラントの数ある孤児施設の一つ。
施設のベッドに横に眠りながら、ぼんやり外を眺める瞳があった。
メンデル襲撃事件を生き延びたイツキだ。
怪我でベッドに横になっているのではない。
ならば何故、横たわっているか?
彼はコーディネーターでありながら病弱だったのだ。
そう、それがイツキは失敗作とされた理由。
イツキ:『何故、僕は・・・・・』
病気になるたび、イツキはいつもそう考える。
普通に生まれたコーディネーターは病気にかかりにくい。
それは遺伝子調整を受けており、病原体に対する抗体などもナチュラルより強いからだ。
現にコズミック・イラ54年に流行したS2インフルエンザでナチュラルは多数の死者が出たが、コーディネーターの死者は0だった。
このことから分かるのは、S2インフルエンザでコーディネーターは誰も死亡していない事と病気にかかりにくい事。
結果、S2インフルエンザはコーディネーターが生み出した大量虐殺兵器としての、考えが広まった。
勿論、実際にはそんな事実は無い。
全てはブルーコスモスの流したデマ。
真実を知らない人々はブルーコスモスの言葉に耳を傾けるのだった。
あくまで病気にかかりにくいと言うだけで風邪を引く時は引くし、癌に絶対ならないという保障はない。
だが、イツキは別である。
彼は成功体をして生まれるはずだった。
しかし、実際は生まれたときには、病弱と言うハンデを背負っていた。
そのため、結局研究員達はイツキを原因究明の材料として見た。
いや、そうとしか見られなかったのだ。
失敗作としか。
彼は満足な治療も受けられず、放置されてしまい、病原体などのための実験体となっていた。
そして、運命の日。
この日はメンデルに居た者の運命を変えた。
勿論、彼も例外ではなかった。
そう、彼にとってあの日はチャンスであり、最後の賭けだった。
いわゆる分の悪い賭け。
イツキはあの日頭痛に襲われながらも体を必死に走らせた。
ついに彼はシャトルに乗り込めた。
だが、病弱であまり運動できない彼の体は限界に近づいていた。
プラントに着いた時は、虫の息に近い状態で街を彷徨い、もう一歩も動けないようになっていた。
その時彼は、このまま自分は野垂れ死ぬんだろうなと、覚悟した。
だが、神は彼を見捨てなかった。
偶然通りがかった誇示施設の職員に発見され、現在に至っている。
マルル:「あなた、どれだけ体が弱いの?」
彼の病弱な体質が施設に居たところで変わらない。
よく体調を崩しては寝込んでいた。
おかげで、他の子供達と満足に遊ぶことも出来ず、施設の子供達からバカにされることも多かった。
マルルのような女の子にまでバカにされている。
イツキ自身は自分が特殊な生まれしている事を知っていた。
病弱なのは自分が特殊な生まれ以外には考えられないからだ。
だからといって、彼にその事実を覆す事は不可能。
誰にも相談できないそのことを隠すかのように、いつも彼は笑顔だった。
しかし、それは仮面でしかなかった。
とはいえ、笑っていれば周囲も一応気にかけてくれるし、変な同情をされることも無かった。
しかしその笑顔の裏では、キラに対する憎悪を少しずつ膨らませていたのであった。
*
プラントの孤児施設に逃れる事の出来た者は多かった。
その中で最もマシな生活をしている者も居る。
テツだ。
彼は今5歳。
あの襲撃事件から丁度5年の月日が過ぎている。
彼は自分の生まれについて、全く知らなかった。
ただ、メンデルに生まれた事だけは知っている。
彼の失敗作となった理由は詳細不明らしい。
ただ単に本人が聞いてなかっただけかもしれないが。
一応、背の低い事をコンプレックスに抱いている。
後は物覚えが悪い事であろう。
勿論、キラの存在についても知るはずも無かった。
後に作られる組織のメンバーの中で彼は貧しいながらも、他のメンバーよりずっといい生活を送っていた。
友達もたくさんでき、テレビのアニメ番組にはみんなで叫んでいたりもした。
時には施設から抜け出して、プラントの街を散策したりと。
彼は貧しいながらも笑顔で溢れる生活をしていたのだ。
彼にとっては中々の思い出であった。
他のメンバー達と比べて。
*
メンデル襲撃から時は流れた。
メンデルにはその傷跡が残っていた。
本当なら誰も居ないはずだった。
だが、いつの間にか再び最高のコーディネーターの研究が進められていた。
メンデル襲撃事件後に出されたコーディネーターの製造を禁止されていると知りながら。
生き残った者もいれば、一度は脱出した者が戻って研究を再開していた。
彼らもキラという存在が生まれた事は知っていた。
それでも、彼らは研究に励む。
キラは運が良くて成功した。
確実な成功体を作るには遺伝子の研究が必要不可欠。
今日も実験室にて遺伝子を研究しようと失敗作の研究が行われる。
連れてこられた彼の名シュウ。
シュウが生き残った理由は一番奥の部屋に隠れていたから。
同時にメンデルから逃げるチャンスを逃してしまった。
その後の彼に待っていたものは再び、実験体としての生活だった。
メンデル襲撃前より明らかに変人とも呼べる研究員達が集まっていた。
襲撃の際に亡くなった子供の脳を取り出し、死に掛けていた別の子供に人格移植などという、普通に考えたら無駄な行為をしているのだ。
さらに偶然残っていたラウの遺伝子を使い、クローンを生み出したりもしていた。
変人ばかりのおかげでシュウの体には無数の手術跡が浮かんでいる。
それでも、研究員達は彼の体にメスを入れて、針を射す。
最高のコーディネーターを作るために。
シュウ:「あいつら!!」
彼は実験が終了するといつも呟く。
口癖のような感覚で。
彼は研究者に対し、常に激しい憎悪を抱いていた。
何故、また最高のコーディネーターを作ろうとするのか事態意味が分からなかった。
シュウは憎悪と同時に自分の存在について嘆いていた。
毎日がこの状況では生きる気力が無くしそうなのだ。
ブルアー:「大丈夫だったか?」
エルト:「今日も何とか乗り切れたね」
彼の生きる気力を支えているのは彼らだった。
人数も以前より大幅に少なくなり、子供達で団結力が増していた。
みんなが集まっては、励ましあいながら、こんな会話が日常茶飯事で話されていた。
いつの日かここを抜け出そう。
そう、彼らはタイミングを見計らっていた。
復讐という刃を掲げる事が出来る時を。
実験、襲撃で死んでいった仲間達のために、自分達は生き抜かなければいけない。
そんな思いは彼を強くさせ、毎日の実験の苦痛に耐えているのだった。
裏でレイやヴェイア、ソウキスシリーズ、プレアのような者達が生まれている事などシュウ達は知るはずも無かった。
END
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