「プロローグ8 星を見る者と目覚める者」
彼はごく普通の家庭に生まれ、育った。
スウェンはいつも空の星を見ていた。
綺麗だが、切なく、儚く、輝く星を。
雲の無い時はいつも望遠鏡を使って、見ていた。
しかし、ある日のことだった。
スウェンの両親は死亡した。
原因は事故死。
噂ではブルーコスモスのテロに巻き込まれたという話もあるが、スウェンにとってどうでも良かった。
両親はもう居ない。
それだけが真実なのだ。
どうやって、生きればいいのだろうか?
スウェンはそれを中心に考えていた。
彼を引き取ろうとする親族は誰も居なかった。
両親の墓を立てて、はい、さようならと言う具合に。
そのため、両親が死んで悲しんでいる場合ではないのである。
しかし、まだ子供のスウェンに良いアイデアが思い浮かぶはずがなかった。
両親が死んでしばらく過ぎた頃。
彼はかろうじて元の家に住んでいた。
しかし、両親の貯金も底を尽きようとしている。
ずっと家に居られるはずがないのである。
そんな、ある日のこと。
玄関のチャイムが鳴り響く。
チャイムの音を聴いて、スウェンはドアを開ける。
そこに居たのはどこかの兵隊のような服装をしている男が数人居た。
彼らの行動はスウェンの運命を変えることになるなど、スウェンが気づくはず無かった。
スウェン:「あの・・・何か用ですか?」
相手が何であろうと訊ねるスウェン。
数人の男達の一人が答えた。
ブルーコスモス兵:「我々は君を引き取りに来た。安心してくれ、施設みたいなところだから」
その男の言葉の真意も知らずスウェンは反応を示す。
やはり、スウェンは子供なのだ。
施設と聞けば、入りたいと思ったのである。
だとしても、疑問は残る。
何故、自分を引き取りに来たのだろうか?
いくら子供のスウェンでもそれくらいは頭に思い浮かぶのである
スウェン:「なんで僕を?」
ブルーコスモス兵:「君は選ばれたのだ」
即答する兵士。
選ばれたと言う言葉に気を取られたスウェンは彼らのところへ行くことを決意するのであった。
*
スウェン:「・・・・・・」
あまりの光景にスウェンは絶句となった。
どう見ても、可笑しな学校にしか見えない。
ヘッドフォンをずっとつけたり、体育であるはずの教科が見る限り兵士としての訓練としか見えなかったりと、どう見ても普通じゃない。
だが、一般的には普通の学校として知られているこの学校。
それもそのはず、この学校は一般の人からは有名私立学校として知られているが、実態はスクールと呼ばれるうちの一つであるのだ。
この学校こそがジパングスクール。
マインドコントロールを重視して行うスクールでもある。
だが、裏で陰謀が渦巻いている事も知らず、スウェンはここで生活する事になった。
翌日・・・
ミレーネ:「今日からお前達の教官であり、監視役となった、ミレーネ・フェーバンだ。私のことはミレーネ教官と呼んでくれ」
ミレーネは一見、ナイスボディと思える体系を持つ女性。
しかし、強気な口調でスウェン達を圧倒していた。
さらに言えば、見事なハスキーボイスの持ち主だ。
ミレーネ:「返事は!」
子供達:「はい!ミレーネ教官!」
この人を怒らせたら怖い。
そう、直感的にスウェン達は感じた。
子供達の返事を聞いたミレーネはよし、いい返事だと呟きながら、テレビを触る。
ミレーネ:「よし、お前達は今からこのビデオを見てもらう」
そう言った後、映像が流れる。
その内容はコーディネーターが僕達の家族を奪った、僕らはコーディネーターを滅ぼす、ブルーコスモスこそが正義だと宣言するビデオだった。
スウェンは別にコーディネーターに恨みを持っているわけではなかった。
逆に言えば、スウェンはブルーコスモスの方を恨みたかった。
一応、両親の事故についての噂だけは聴いていたからだ。
だが、確証が無い。
そのため、スウェンにとってナチュラルもコーディネーターも関係なかった。
ミレーネ:「次はここだ」
やがて、ビデオは終了し、ミレーネは子供達をある場所へ連れて行く。
入った場所には全員の部屋があった。
そこへはヘッドフォンが置かれており、テレビもあった。
全員がそれぞれの部屋に入ると扉が開かないようになり、スウェンは助けを求める。
しかし、何をしても扉が開くはずは無かった。
何もすることもなく、スウェンはヘッドフォンを耳に付ける。
すると流れてきたのは、先程のビデオの声のみバージョン。
さらにヘッドフォンを付けるとテレビが勝手に付いたのだ。
これも先程見たビデオが流れていた。
ヘッドフォンを外そうとしても外せない。
誰がどう見ても、コーディネーターが悪い、滅ぼせと言う事の洗脳なのだ。
ゼルヴィ:「フフフフフ・・・・・うまくいっているようじゃな」
その男は来ていた。
子供達がどんな教育を受けているのかを確認するのが、主な目的である。
そして、メンデルから来たシャトルの子供達を引き渡すのもある。
ミレーネ:「私達の行動は本当に正しいのでしょうか?」
ゼルヴィに意見したのはミレーネ。
彼女は疑問を持ち始めた。
明らかにゼルヴィが子供達にしていることは洗脳なのだ。
この様子を見ていて、普通にいられる人間はそう居ない。
どうやら、ゼルヴィやセルヴィは別のようだが。
セルヴィ:「我々はナチュラルの未来のために行っているのだ。多少の犠牲は目を瞑らなければ、コーディネーターを滅ぼす事など出来はしない」
ゼルヴィ:「それがコーディネーターなら、なおさらだ」
彼らはコーディネーターを滅ぼす事になんのためらいも無かった。
コーディネーターを全て滅ぼすためなら、多少の犠牲は構わんというような考え方を元に。
スウェン:「・・・・・・・」
スウェンはこの生活をずっと続けた。
いや、続けるしかなかったと言うのだろうか?
彼にはもう帰る場所など無かったのだから。
このスクールから別のスクールへ移動するその日まで。
*
メンデル襲撃事件から1年が過ぎた。
クランプは何とか暮らしていた。
地球の慣れない気候の変動に耐えながら。
彼は名も知らぬ研究者に手を引かれて、メンデルを脱出し、シャトルで地球へと降りた。
地球へ降りてしばらくはその研究者と2でスラム街の中で息を潜めるように過ごしていた。
ブルーコスモス派のテロに脅えながら。
だが、ある日クランプと研究者の家にブルーコスモスに雇われた傭兵が乱入。
その際に研究者は射殺され、クランプはある場所へ連れて行かれた。
クランプが連れて行かれたところは奴隷の収容所らしき場所だった。
そして、来る日も肉体労働に従事する日々。
一応は食事もあるがおにぎり1個と毎日が空腹の状態。
さらに加え、クランプがメンデル生まれと知っていたため、他の子供達よりずっと過酷な労働を強いられていた。
メンデル生まれ=基本的にはコーディネーターの中でも優秀、という式が成り立つらしい。
この勝手とも思える思い込みのせいでクランプは過酷な労働をこなさなければいけなかった。
大人でも根を上げてしまうはずの作業を、ただ黙々と繰り返すクランプ。
だが、心の中では怒りと不満が増加されていった
警備兵:「ほらしっかり働けよ!宇宙の化け物め!」
自分はしっかり労働をしているのに何故、こいつらは・・・
そう感じた瞬間、クランプに迷いは無かった。
クランプはついに現状に耐え切れなくなり、1人の警備兵に襲いかかる。
オリンピック選手あるいは、それ以上ともいえる恐ろしいほどの跳躍力で警備兵の頭上を跳び越すと、後ろから首を羽交い絞めにしてそのままへし折る。
クランプは短気のDNA、髪の色が予定と違った事が失敗作とされた理由だった。
しかし、研究員達は彼の隠れた才能に気づかなかったのだ。
それは運動神経が抜群であったことである。
異変に気付いた他の兵達が銃を持って彼に迫るが、クランプはそれを次々と打ち倒していく。
子供とは思えない俊敏な動きで銃弾を掻い潜り、怪力によって一撃で兵士達を床へと転がす。
敵兵士からすれば、銃弾が当たらないため、クランプに倒される直前が最も恐怖であった。
以下に子供を甘く見ていたかを最後の最後で知らされるのだ。
自分の力を目の当たりにして、次第に彼はメンデルで生まれたコーディネーターとしての己の力を確信していく。
メンデルで産まれた自分はコーディネーターの中でも特別な存在なんだ。
キラという存在のために自分は産まれた失敗作だと聞かされたが、そんなことは信じない。
何故なら、周りの人間達は誰も自分に敵わず、倒れているのだ。
ここまで出来るのだから、俺は失敗作であるはずがない。
クランプ:「ふははははっはははっはは・・・・・・」
彼は嬉々とした表情を浮かべながら、順応無人に駆け回る。
やがて、全ての警備兵を打ち倒した。
無事に動いているのが自分だけだと知った時、クランプは勝利の雄叫びを上げていた。
これなら生きていけると。
END
NEXT「それぞれの生活」