「プロローグ6 メンデル脱出後のプラント」
メンデルから脱出した多くのシャトルはプラントへ入港していた。
少数のシャトルは地球へと。
到着の際研究員は自分の事しか考えず、シャトルの外へでる。
セイはプラントに着いたことを確認するとすぐに外へ出た。
多くの研究者の目をかわしながら、真っ先に飛び出す。
早く出たかったのだから・・・
セイは出口へ向かった。
セイ:『ここがプラントの町なのか?』
そして、セイは初めて外の光景を目にした。
夜であったため、街の光景が綺麗だったのだ。
特にセイの年齢はまだ幼いのだから無理もない。
自由を手にしたセイにとって、街中はキラキラと輝いていた。
まるで宝のように・・・
だが、光景を眺める中である不安がセイに押し寄せる。
セイは外の世界について全くといっていいほど知らないのだ。
メンデルと言う狭い限定範囲の中で与えられるものだけが全ての世界しか、生きてこられなかったのだから。
いや、生かしてもらえなかったと言うべきだろうか。
そんなセイがこれから生きてゆかねばならないのだから。
セイのことを知る者であれば、誰もが思うだろう。
無謀だと。
しかし、セイには僅かだが希望があった。
成功として生まれたスーパーコーディネーターであるキラは死んだ。
だが、失敗である自分は生き残った。
ならば、生きている者こそが優秀なはずだ。
自分は生きている。
あのメンデルと言う戦場を生き延びる事が出来たのだ。
生きていなければメンデルで恐ろしい結末になっていただろう。
サッシュを始めとする実験で亡くなった者達のように。
メンデルで生きていたとしたらただの標本に過ぎない。
それは嫌だ。
やっと自由を手に出来たのだ。
サッシュのことを考えたセイは脳裏の奥深くに植えつけられたサッシュの光景を思い出す。
液体の中に沈められたサッシュだったものを。
セイは一人街中で頭を抱えてうずくまる。
しかし、プラントの街中を流れ行く人々は誰も気にかけず、流れるだけ。
セイが産まれて始めて手に入れた自由とは、仲間も居ない孤独な自由だったのである。
やがて、治まったセイはゆっくりだが、歩き出す。
今にも涙を流しそうな瞳で街を見渡す。
光溢れるこの街でセイは生きていかなければならない。
彼にとっての自由。
それはキラを超える事だけだった。
自分はキラよりも優秀だと言うことの存在意義をかけて証明する。
自分を納得させるために。
セイは知らぬ間にその呪縛に縛られていた。
彼はすぐに街へと歩き出す。
やがて、光ある街アプリリウスの中へ消えていった。
一人の男の目線も知らないまま。
キワー:『行ったか・・・あの子は私の助けなど求めないだろう』
キワーはセイがシャトルに乗っている事に唯一気づいていた。
それでも言わなかったのは皆もそれどころではなく、自分のことに必死だったから。
無論キワー自身もそうだった。
出来れば引き取って面倒を見たかったが、彼はそんなことを望まないと心は分かっていた。
だから何もしなかったのだ。
しばらくして、彼も動き出す。
今までの罪を償うために。
例え許されずとも。
キワーも街中へ消えていった。
*
ほぼ同時期の別のシャトル。
ここにもメンデルで生き残った子供が乗り込んでいた。
その子供の名前はカイト。
シャトルの扉が開くと真っ先に飛び出す。
ここはプラント。
自分を縛るメンデルではない。
走るカイト。
その走りは同年代の子供から見れば少し遅いくらい。
それでも、殆どのナチュラルより上なのだろうが。
周りの人々はカイトの走りを大して気にせず、人の流れに飲み込まれていった。
街中を走り回ったカイトは丁度、交差点の辺りで休憩していた。
その際カイトは街頭のテレビを目にする。
そこには今流行のDVDの紹介をしていた。
ピリー:「今流行中のピリーズブートキャンプは絶賛発売中。売り切れ御免!販売店へ急げ!」
それは流行しているらしいピリーズブートキャンプのCMだった。
カイトは街中の人々の言葉に耳を傾ける。
するとピリーズブートキャンプは1週間でダイエット成功、色々な体の部分が鍛えられる、と言った話が聞こえてくる。
先程の映像を見る限り、全く見えないのだが・・・
もう一度流さないかと思いカイトはその場で待つ事にした。
数分後、番組でピリーが出てきたのだ。
その番組内の動きをなんとか真似てみる。
周囲の人から見れば異様な光景。
だが、誰も声をかけずに人込みに流れるだけ。
ピリー:「はい、ここまで。みんな行くYO! 3、2、1・・・ヴィクトリー! ではまた会いましょう!」
カイトの行動を見ていた人達はクスクス笑う。
こんな街中で、ピリーの真似る人はまず居ないのである。
常識的に考えれば当たり前なのだが、カイトはメンデル出身。
メンデルでは常識も、何もない。
あるのは実験体としての道だけ。
カイトにとって、何かもが新鮮だった。
やがて、カイトは施設へ入る。
メンデルで生まれたコーディネーターは基本的に知能が高い。
そのため、いくらでも口実が思いつくのだ。
と言っても、そこまで詳しい口実はプラントの施設でも要らないのだが。
そんなことはいざ知らず、カイトは何とか施設に入ったのだった。
カイトは他の子供から見れば異様な存在だった。
来る日も来る日もトレーニングをしているのだから、無理もない。
勿論、カイトがトレーニングをしているのは理由がある。
死んだキラを超える。
そして、自分の弱点を克服するため。
彼の弱点というより、これは失敗作にされた理由にある。
それが、運動能力の発達するDNAの数が少なかったこと。
それを研究員から聞かされていたカイトはどうしても、何とかしたかった。
メンデルに居た時も、プラントの施設に居る時も。
彼にとっての本当の安息の場所は見つかっていないのだから。
今日もカイトはトレーニングに励む。
キラ・ヤマトという夢の存在を超えるために。
*
ポーター:「どうか、この子をよろしくお願いします」
ポーターという元メンデル科学者は腕に子供を抱えて、訴えた。
その子は女の子。
顔に特徴を持って生まれた子である。
施設最高責任者:「分かりました」
あまりの必死さに施設側も断るに断れなかった。
その子を渡した後ポーターは去っていった。
これからも自らの罪を償うために。
それが誰に許され、誰に許されないのか本人でも分かっている。
でも、彼はその道を選んだ。
自分はメンデルに居たのだから。
*
レイカ:「おーほっほほ!あんたいつ見てもブスね」
ニーフォル:「ホントー!あんたなんで生まれてきたのよ!」
イーミル:「施設からも失せなさい!」
3人は言葉と暴力である子をいじめていた。
フリンという女の子である。
この子はポーターが連れてきた子である。
フリンの顔の特徴とは顔が醜く爛れているのだ。
この顔により、失敗作と判子を押された。
その理由で施設でもいじめられていた。
施設の勤務している者達は見つけると、やめなさい!と言うだけ。
誰も庇う事はせず、目撃したら見ているだけ。
だから、フリンはいつも泣いていた。
フリルには誰も仲間が居ない。
孤独なのだ。
ポーターがこのことを知ったら、おそらくここへ引き取りに来るだろうが、彼は二度と施設に現れることはなかった。
自分がどうやってこの施設へ来たか分からないフリルにとって、ポーターという存在はどうでもよかった。
それ以前にフリンはポーターという人物も名前すらも知らない。
自分がいじめられる怒りはキラのせいだと考えるフリル。
しかし、キラが居ない事も知っている彼女の怒りはどこへ向けられるか分からなかった。
やがて、怒りの矛先はレイカ達へと向けられた。
フリン:『私がこの顔でなければいじめられることもなかったのに・・・この世界の女は・・・・私より可愛い女は・・許さない!』
フリンは自分より可愛い存在の全ての女性が憎かった。
彼女が心に誓ってすぐのことだった。
雨の降る夜の事。
みんなで料理を作っていたときである。
レイカ:「あんたなんかに料理はできないわブス!やっぱりいつ見てもブスね。このブス。ブスブスブス・・・・」
ブスという言葉にフリルは感情を爆発させた。
フリンは近くに置いてあったナイフを持って、自分をいじめていたリーダ格のレイカを襲う。
レイカ:「キャァー!なんのつもりよブス!」
レイカは挑発させながら逃げていた。
突然の悲鳴に逃げ惑うほかの子供達。
こんな時に限って、施設の者は誰も居ない。
夜から休みにして、飲食店で食事をしているからだ。
この施設に居るのは子供達だけ。
挑発しながら逃げ回ったことが仇となりレイカはすぐに捕まった。
床に押し倒され、フリルは馬乗りになる。
ニーフォル、イーミルはブルブル震えながら行く末を見ていた。
レイカ:「何のつもり!?離れなさいよブス!」
フリン:「ブスブスブス・・・・うるさいんだよ!消えろ!」
言い放った瞬間、フリルは目を大きく見開いて、ナイフを振り落とす。
次の瞬間、赤い液体がフリンの全身を染めていく。
フリンは恐ろしい表情で、ナイフを何度も振り下ろす。
聞こえるはレイカ断末魔の叫び。
子供達はプラントで流行していたあるアニメを思い出しながら、震えていた。
そのアニメはひぐらしの鳴く頃の時期を舞台にしたホラー(実はミステリー、推理物だが、子供の目からは全く見えない)アニメである。
その中に出てくるキャラは豹変し、恐ろしい表情で人を殺める。
今のフリンの表情と行動はそのアニメと同じように見えたのだ。
フリンは満たされていく心に快感を覚え、ナイフをさらに振り下ろしていく。
やがて、レイカの最後の断末魔の声が施設内に響く。
外の雨音はBGMのように降り注いでいた。
しばらくするとフリンは止まっていた。
相手が完全に絶命したからか、ナイフを振り落とす事に疲れたのか。
そのフリンの様子は壊れたドールのように静止していた。
何かの前触れのように。
時間が経つとフリンはゆっくり立ち上がる。
その顔には返り血に染まっており、表情もこの世のものとは思えない恐ろしい微笑を浮かべていた。
フリンの顔は部屋の隅で震えている子供達へ向けられる。
その瞳には残虐で邪悪な光が宿っていた。
まるでに何かに目覚めてしまったかのように・・・
END
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