「プロローグ5 双子の別れと養子」
メンデル襲撃事件が起きて1週間が過ぎた。
ヤマト夫妻は家に戻りこれからどうするかを考えていた。
メンデル襲撃の際ブルーコスモスの真っ先の狙いはキラであったはずだ。
キラが生きていると知られるとまた、命を狙われる。
どうすればいいのだろうと考えた時、ハルマはある人物を思い出す。
ユーレンの友人の一人ウズミ・ナラ・アスハである。
無理を承知でヤマト夫妻はウズミにコンタクトを取る事を決意するのであった。
数日後・・・
ハルマ:「ウズミ様、わざわざ時間を作っていただいてありがとうございます」
ヤマト夫妻はキラとカガリを連れていたが、ウズミは何事にも動じる事はなく、すぐに話しに移った。
ウズミの瞳にはもうすでに何かを決意しているように思えた。
ウズミ:「ユーレンについては聞きいています。ここに来たという事は彼に関係した事でしょう」
夫妻はただ、ウズミに時間を作って欲しいとお願いしただけであったため、中々驚いた。
事件について知っていればある程度予測できる事なのだが・・・
とりあえず、夫妻はメンデルでの一部始終を伝える。
話し終わった後しばらくの沈黙があったものの、ウズミは口を開く。
ウズミ:「キラ君が生きていると彼らに存在が知られれば、再び命を狙われる。二人でいるとカガリちゃんも巻き込まれかねないということか・・・私の方でどちらかを引き取ろう。しかし、その場合は私の後を継いでもらおうと考えているから・・・」
カリダ:「もう、どちらか一方とプライベートなどで会う事は出来ないと?」
ゆっくりとウズミは頷いた。
夫妻もウズミにどちらかを預かってもらおうと考えていたのだが、まさかウズミの後継者として育てるとは思っていなかったので、驚く。
しかし、ハルマ達はすでに決意していた。
ハルマ:「では、カガリの方を。その方がオーブの後継者になるのは相応しいでしょう。それに・・・」
ハルマは口を閉ざす。
言うべきか言わないべきか迷ったのだ。
その様子にウズミは言うはずだった言葉を理解したような言葉を発する。
ウズミ:「それ以上は話さなくても良い。では、二人の秘密は我々だけの秘密ということに致しましょう。後は我々も二度と会わないように。ところでオーブから離れたほうが良いのでは?」
姉弟の事を秘密にすることは夫妻にとっても納得だった。
一生、自分の生まれを知らないように振舞うと。
もう一つのウズミからの提案はカリダが答えた。
カリダ:「私達は近いうちにコペルニクスへ移住します。そこでしばらくは」
この言葉により、ほとんど話し合いは終わった。
ヤマト夫妻はカガリをよろしくお願いしますと言って、アスハ家の豪邸を立ち去った。
これから、自分達は一生キラに嘘をついていかなければいけないと思うと罪悪感が胸に重くのしかかる。
しかし、隠す以外に思いつかなかった。
もし、キラが本当の事を知った時、キラは・・・
夫妻にとって想像したくない事態に成りかねない。
せめて真実を知らないように・・・
夫妻はやがて人知れずコペルニクスへ移住した。
誰にも知らせずに。
*
ヤマト夫妻がコペルニクスに移住して、2ヶ月過ぎたくらいの日だった。
ウズミにオーブの議員の一人がプライベートで話しがあると言ってきたのだ。
その話を聞いたウズミは後日時間を作ると約束する。
指定日・・・
ヤマト夫妻の時と同じく、ウズミは自分の豪邸で待ち構えた。
カガリの事はキサカに任せて、一人で待った。
約束どおりの時間に議員はチャイムを鳴らし、ウズミの家に入ってくる。
しかし、そこには議員ともう一人の男性が居た。
ドゥデン:「お初にお目にかかります、ウズミ様。私はドゥデン・コクラーンと申します」
よく見るとドゥデンの手には子供が抱きかかえられていた。
ウズミはまさかヤマト夫妻と同じ理由か?とウズミは考える。
でも、すぐにその考えは止めた。
その可能性はないと。
ウズミ:「私にお話とは?」
ドゥデン:「実はこの子を引き取ってもらいたいのです」
先程考えていた事が現実になってしまった。
もう、カガリが家には居るのだから他を当たるようにウズミは話す。
話を聞いてもドゥデンはウズミに預かってもらう方が安全だと言い張る。
どうしたものかとウズミが考えているとドゥデンは理由を話し始めた。
ドゥデン:「まずはこのレポートを見てください」
そう言って、ドゥデンは封筒の中に入っていた研究レポートのようなものを出す。
ウズミは手にとってそのレポートを目に通す。
見た瞬間ウズミはレポートの内容に驚き、思わずレポートを落としてしまう。
そこにはメンデルで研究されて生み出された人物の名前が書かれていた。
よく見ると何故かカガリの名前まで入っていた。
最後の名前はキラ・ヤマトと書かれていた。
ウズミ:「君はメンデルの・・・」
ドゥデン:「そうです。私はメンデル襲撃以前に退いて助かりました。このレポートはキラ・ヤマトが生まれてから、メンデルを抜け出したオキマ・クエワールが持っていたレポートです。彼は今一緒に住んでいます」
さらにドゥデンは説明を加えた。
ドゥデンは研究に嫌気が完全に指した時に辞表を出し、一人の子供を抱いて、メンデルを離れた人物である。
辞表を出した日が偶然にもキラが生まれる何日か前であった。
封筒やレポートを持っていた元の人物の名はオキマ・クエワール。
オキマは成功体が完成すると研究資料などを持ち出し、メンデルから脱走した。
オーブへ来たのはいいものも行く当てもなく、街を彷徨っていた時にドゥデンと再会したのであった。
事情と研究レポートの事を聞いたドゥデンはオキマと共に暮らす事に決めたのである。
そして、偶然にもドゥデンはオーブの議員の一人と友人であったため、子供の事を相談し、ウズミに話しては?という結論が出てしまい、アスハ家に来たと言う事である。
等と言う事をドゥデンはウズミに説明した。
ウズミはしばらく、沈黙した。
カガリを自分の後継者として育てる事はもう決めた。
子供を引き取るにしても、どう育てるべきか・・・
ウズミの頭の中で引き取らないと言う選択肢はなかった。
ヤマト夫妻の時と同じく、何か放っておけない気がしてならなかったのだ。
ウズミ:「うむ、引き取ろう。ところでその子の名前は?」
沈黙していても仕方ないため、答える。
すぐにドゥデンは言葉を返す。
ドゥデン:「ありがとうございます、ウズミ様。彼には名前がありません。名前が決まる前に持ち出してしまったので」
この答えはウズミにとって予想外だった。
先程の資料の中に名前があるものだと思っていたからだ。
ウズミ:「分かった。私が名づけよう・・・・・この子の名はマサカズだ」
何故マサカズという名が出てきたかは本人には分からない。
しかし、ウズミはこの名に納得した。
ドゥデン:「マサカズですか。いい名前をありがとうございます。では、私はもう家に帰ります」
そう言って、議員のダルヴォとドゥデンは帰った。
ウズミは片づけをしようとテーブルを見る。
そこにはあの封筒と研究レポートが置かれていた。
しまったと思いつつ、どこへ隠そうかと考えた結果、古い本の中に隠す事にした。
代々アスハ家に伝わる本に。
隠した後、ウズミは頭を抱えていた。
子供を二人も引き取ってしまったことに不安が押し寄せてきたのだ。
これからどうやって二人を育てるべきか・・・
しかし、ウズミは他の人に預けようとは絶対に考えなかった。
ウズミは頑固であり、1度決めたら考えを絶対に曲げない人間なのだ。
ブイオー:「ウズミ様?気づいていらっしゃいますか?」
考え込んでいたウズミは声に驚く。
彼の名はブイオー。
オーブ軍の中でも優秀な軍人の一人であり、階級は少佐。
常にウズミのボディガードをしており、今回の話も聞いていた。
ウズミ:「む・・・そうだ!ブイオー、マサカズの面倒を見てくれんか?カガリはキサカが見ておるし・・・」
ブイオーは頷く。
その仕草を確認するとウズミは出かけていった。
ウズミは決して暇なわけではないのだから・・・
こうしてウズミは短い期間の内に二人の子供を授かった。
この時、ウズミは知る由もなかった。
後に起きる戦争で自分の引き取った二人が大きく関係する事を・・・
END
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