「プロローグ3 青き清浄なる世界のために」




???:「情報は伝えた。後は好きにしろ」

それだけ言うと、男は去っていった。
その男が伝えた事はキラという成功体が完成したことである。
当時のブルーコスモスの盟主は決意した。
データは採取するだけ行った。
もう、ユーレンと成功体など必要ない。
ブルーコスモスにとってコーディネーターの成功体は存在してはならないのだ。
だからメンデルを・・・



運命の日。
キラが生まれて何日が過ぎた日のこと。
ヤマト夫妻はメンデルを訪れていた。
カリダの姉であるヴィアに呼び出されたからだ。
そして、ヴィアの部屋に3人で入り本題に入った。

ヴィア:「二人にお願いがあるの」

ヤマト夫妻は何のお願いか頭をフル回転させて考えた。
夫妻もキラとカガリの事を聞いていた。
手紙に写真も2枚貰っているのだから。
カガリはヴィアの胎内から産まれたが、キラは受精卵の段階で母胎から取り出され、人工子宮に移された事を。
それぞれの頭で考えた際にヴィアから言葉が告げられる。

ヴィア:「この子達を預かって欲しいの」

そう言いながらヴィアは指を指す。
指を指した先には双子がゆりかごの中に居た。
何故、こんなことを言い出すのだろう?
二人の頭の中に同じ疑問が生る。
まず、ハルマから質問をするのであった。

ハルマ:「何故です?ヴィア姉さんが育てればよろしいのでは?」

カリダは心の中でやっぱり、自分達は夫婦である事を再確認していた。
が、すぐにカリダは現実に戻された。
早くもヴィアがハルマの質問に答えたからである。

ヴィア:「私にはこの子達を育てる資格はないわ。それにキラは夫の実験台にされるだけよ」

ユーレンの行動の意味を気づいていながら止められなかったことをヴィアは後悔していた。
ヴィアの夫であるユーレンは人類の夢のために最高のコーディネーターを作ったわけではなかった。
ただ、自分が最高のコーディネーターの成功体を作り出した研究結果を証明に過ぎないのである。
ユーレンがそのことを考えていた事を自分もなんとなく理解できたのは、夫婦だからなのかもしれない。
だが、結果的にユーレンを止められなかったのはヴィアであり、事実である。
そのことを説明しようとした時に事件は起きた。

「「「!!!」」」

3人は驚いた。
メンデルで爆発が起きたのだ。
ヴィアは状況確認のため、フォルスに連絡した。

ヴィア:「フォルス!何が起きたの?」

フォルス:「詳しくは分かりませんが、テロ組織の可能性が高・い・で・・・・」

急にフォルスの連絡が途絶えた。
彼の言葉にヴィアは気づく。
テロ組織が狙うものがあるとすれば、成功体であるキラしかない。

ヴィア:「私はいいから二人は早くキラとカガリを!」

ヤマト夫妻は現実に戻された。
ヴィアの言葉は自分はいいから、二人はキラとカガリを連れて逃げろということだ。
姉であるヴィアを放っておくことが出来ないカリダは、一緒に逃げようと言った。

ヴィア:「罪を犯した人間はいつか裁かれる・・・それが運命なのかもしれないわ。私は夫の所へ行くわ。あの人を放っておくわけにはいかないから。カリダとハルマさんは早く逃げて!この部屋を出て左へ行くと隠し通路があるわ。そこならテロリストに気づかれず逃げられるはずよ!」

ハルマはすぐに理解できた。
ヴィアの気持ちが。
妻であるカリダの気持ちも。
自分はいいからお腹の子供だけは助けて。
よく聞くドラマのセリフだ。
しかし、今は現実。
この事態はフィクションではなく、ノンフィクションなのだ。
彼女の言葉はよくある言葉かもしれない。
でも、母親の気持ちを理解できるならば、誰だって理解できるだろう。
ハルマは二人の子供を抱きかかえ、分かりました・・ヴィア姉さんも生きて帰ってくださいと言い、カリダを連れて隠し通路へ向かった。

カリダ:「待って!姉さんを見捨てる気なの?だったら私もここで死ぬわ!」

ハルマはカリダの顔を向ける。
言葉を発したカリダは泣いていた。
そして、ハルマ自身も。
肉親が死ぬなんて考えたくもないし、自分達が今やっていることは明らかにヴィアを見殺しにしようとしているのだ。
だが、これはハルマも一緒の気持ちであった。
泣きながらハルマは泣いていたカリダを平手で叩き言葉を告げる。

ハルマ:「カリダはヴィア姉さんの覚悟が分からないのか?今俺達に出来ることはキラとカガリの命を守る事だ!」

カリダはやっと気づく。
母親という立場ならあそこでどういう風に決断するかを。
自分もあの状況だったら同じ選択をしているのだ。
例え、罪を犯した夫を見逃すわけにはいかないし、おそらく自分はテロリストに顔を知られている。
ならば、せめて子供達を私達に預けて逃げるように言うのだと。

カリダ:「分かったわよ!」

カリダは悲しみを抑えながら、ハルマと共に走り出す。
キラとカガリの命を、ヴィアから託されたこの命を捨てるわけにはいかない。
二人は隠し通路へ向かうのであった。



一方・・・
別の隠し通路から急いで戻るガルグの姿があった。
数分前、ガルグは脱走する時の下見に来ていた。
この通路の奥を見ようとしたときである。
急に爆音が轟く。
ガルグはテロであろうと予測がつき、すぐに子供達の所へ向かった。
あいつらの狙いは成功体だけではないはずだ。
恐らく研究所の始末もするつもりだろう。
それだけ考え、ガルグは走った。
足が擦り切れてもいい。
嫌な予感よ当たらないでくれ。
ついに自分の部屋へ来たガルグは見てしまった。
自分の知っている子供達は遺体となって転がっていた。
ガルグは泣き叫んだ。
殺すのであれば研究者や成功体だけでいい。
何故、自分達のような失敗作まで殺されなければならない。
ガルグの瞳には怒りと悲しみと狂気が宿っていた。
自分を襲ってくるテロリストは殺す。
だけど、死んでいない仲間を放っておくわけにもいかない。
ガルグは二つの事を同時にやろうと決意する。
近くに落ちていた銃を拾い、ガルグは仲間を助けるために動き出すのであった。



ユーレン:「君達の狙いはなんだ!」

複数の研究員とユーレンはテロリストに囲まれていた。
ユーレンはこのテロリストが何処から来たのか、大よその予測を立てていた。
そして、ユーレンの問いに一人のテロリストは答えた。

テロリストリーダー:「お前達だって予測はついているだろう?俺達は青き清浄なる世界のために此処を破壊しに来た」

ユーレン以外の研究員は恐怖に震え上がった。
青き清浄なる世界のために。
このスローガンは明らかにブルーコスモスの証なのだから。
だが、恐怖と同時に生き残こることを考えていた。
そこにテロリストから恐るべき言葉が告げられる。

テロリストリーダー:「ユーレン以外の人間には興味がない。助かりたければ逃げろ」

その言葉を信じた殆どの研究員は扉へ逃げ出した。
ユーレンが罠だと叫んでも彼らは話を聞かずに扉へ向かっていった。
テロリストは狂気の笑い声を上げながら叫んだ。
撃て!と。
その瞬間その場に居た研究員とユーレンは死亡した。
マシンガンで死亡した後も撃たれ、体の原型がほぼ分からないまで撃たれた。
次にテロリストのリーダーはこう指示した。

テロリストリーダー:「ガキを撃ち殺せ!見つけた者は全て殺せ!赤ん坊でも見逃すな!ためらうな!成功体がどこかに居るはずだからな!」

テロリストのリーダーはそれだけ言うとユーレンを再び撃っていた。
もう死んでいるのは頭でも理解しているはずだ。
しかし、自分を失敗作にし、地球軍に渡した事を許すわけにはいかなかった。
マシンガンの弾を撃ちつくしても彼はユーレンの遺体に攻撃を行った。
殴り、殴り・・・・・・



その頃ヤマト夫妻は小型シャトルへ乗っていた。
小型シャトルの持ち主は夫妻の知り合いであるミャールである。
ハルマの同級生であり、セレブの類に入るような金持ちだ。
いつも夫妻がメンデルへ来る時は無料で彼女のシャトルに乗って来ている。
今回もそうだっただけ。
その事が幸いし、メンデルにあったシャトルの中で最も早く脱出できた。

ミャール:「オーブへ飛ぶよ!」

すぐにシャトルはオーブへ向かった。
夫妻は微かな希望を願いつつ、新たな二つの希望を抱きメンデルから離れるのであった。
メンデルから離れていく、シャトルの中でカリダとハルマの瞳からは一筋の涙が零れていた。



END




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