「プロローグ2 新たに生まれた成功体」
相変わらずの実験によりガルグ以外の子供が泣く日が毎日続いていた。
ある日セイは痛みに耐え切れず、幼いなりに言葉で研究員に抵抗した。
セイ:「なんで毎日こんなことをするんだ!」
だが、研究員に反論したことに手で叩かれる。
さらに激しい言葉が返ってくる。
フォルス:「このガキがお前に反論する権利は与えられていない!ただでさえでも失敗作が生かしてもらえるだけでもありがたいと思え!」
フォルスは見せ付けに実験器具から激しい電撃を流す。
大人のナチュラルでも死んでいるレベルの電撃を。
セイはあまりの痛みに気絶してしまう。
フォルスは気絶したセイを抱いて高らかに叫ぶ。
フォルス:「お前ら!我々研究者に歯向かってみろ!このガキのようにされたくなかったらこうなるんだぞ!」
フォルスの行動により、同じ部屋に居た子供達の心を恐怖に震え上がらせる。
その日は皆が静かに耐えた。
理由は簡単。
セイのようになりたくないからだ。
やがて、実験の終わりの時間となり、部屋にはセイを除いて誰もが居なくなっていた。
ここでやっとセイは目を覚ます。
誰も居ないと言うことは、実験が終わったと言うことだろうか?
実験が終わったのであれば、自分の部屋に帰るかとセイは立ち上がろうとした。
しかし、電撃のダメージが残っていたのかセイは転んでしまう。
必死に立ち上がろうとするが、一人では立てなかった。
どうやって、部屋に戻ろうかと考えた時に目の前に自分と同じくらいの子供が現れた。
サッシュ:「大丈夫?立てないのなら手伝うよ」
その少年はセイに手を差し伸べた。
だが、セイは戸惑う。
この状況では確かに自分は誰かの力を借りなければ部屋に戻れない。
しかし、人の力を借りてまで立ちたくなかった。
サッシュ:「人の力を借りたくないのは分かるけど困った時は借りるべきだよ」
手を差し伸べた少年にそう言われ、セイは仕方なく力を借りた。
立てたので一応セイはお礼を言った。
相手の子供からどういたしましてと言われた後、自己紹介をされた。
サッシュ:「僕の名前はサッシュ・ディオルグ」
セイ:「僕はセイ・ミヤマ」
互いに自己紹介をし終わり、二人は偶然にも同じ部屋へ戻る。
セイは部屋に戻り、少し安心した。
今までは同じ部屋に居ても話す子供は居なかったからだ。
セイは体へのダメージも関係してか、すぐに眠りについた。
その日セイは初めて夢を見た。
メンデルではない別の場所でサッシュと笑いあっている夢を。
だがこの時セイは何も知らなかった。
夢は夢であることを・・・
*
次の日から二人は実験の時を除いて、常に行動するようになった。
食事の時も寝る時もいつも一緒。
セイとサッシュの仲の良さを見た子供は驚いた。
何であんなに仲良く出来るんだろう?
二人を見た子供の感想がこの一つしかなかった。
時は過ぎていったある日、二人は寝る前に将来について語り合った。
セイ:「サッシュはもし、ここから抜け出せて自由になれたらどうするの?」
話はセイから言葉をかけた。
サッシュはどんな風な答えを出すのだろう?
心をワクワクさせながら、セイはサッシュの答えを待った。
セイの予想を遥かに上回り、サッシュは早く答えた。
サッシュ:「僕はカメラマンになりたいかな?世界を飛び回って、もっと色々な事を知りたいから。セイは何になりたいの?」
サッシュの答えはカメラマンだった。
次にセイが答える。
何になりたいか決めていたから、迷わず答えた。
セイ:「僕は飛行機とかのパイロットになりたい。地球の空を見てみたいんだ」
飛行機のパイロットとセイは答えた。
サッシュは世界をセイは空を見て回りたいのだと。
二人は誓い合う。
サッシュ:「いつか二人でここを抜け出して」
セイ:「いつか二人で地球を見て回ろう」
二人で地球を旅をしようと。
そう誓い合って、二人は眠りについた。
サッシュは夢を見た。
その夢には成長したセイが謎の兵器に搭乗し、宇宙で戦っていた光景だ。
宇宙には光の閃光が飛びまわっていた。
サッシュ:「はぁはぁ・・・」
脅威の光景によりサッシュは目を覚ました。
サッシュにとってあの夢は悪夢でしかなかった。
横に眠っているセイを見て安心する。
自分の唯一の友達であるセイがそんなことになるなんて信じられるわけ無かった。
あれは夢だ。
忘れよう。
サッシュは再び眠りについた。
*
将来の話し合いから数週間後・・・
フォルス:「サッシュ・ディオルグも実験に耐えられなかったか・・・仕方ない実験体としてあの水の中へ入れろ」
フォルスはそう指示し、実験の監視へ移った。
そう新たな犠牲者が増えてしまった。
セイと将来について誓い合ったサッシュだ。
サッシュの遺体はある液体の中へ沈められるのであった。
死んでからもDNAの研究をするために。
セイは実験から帰ってサッシュの姿を探した。
勿論、サッシュが見つかるはずもない。
セイはこの時ただ、実験が長引いているのだろうと考えた。
しかし、何日も過ぎてもサッシュが帰ってくることはなかった。
サッシュがどうなったか知るはずのないセイは深い孤独感に襲われた。
常に心の中でサッシュ早く会いたいと言う気持ちがいっぱいだった。
やがて、サッシュに会いたい気持ちを心の中にしまい込み、実験に耐える日が続いた。
その際に孤独に耐えるセイはあることに気づいた。
自分よりも幼い子供が施設に入っては気付いた時には姿が見えなくなるということが度々起こっていることに。
部屋は数十人の子供と一緒に夜は過ごすのだが、顔の分かる子供がサッシュのように消えている事が分かったのだ。
だが、そんなことは一緒に過ごす子供に聞けなかった。
実験の痛みに耐えるだけで精一杯の子供達は生きることに全力なのだから。
そのため、セイは自分でこの謎を究明しようと探検に出ようとする。
*
セイの部屋はガルグの部屋と違い警備が硬いため、簡単には抜けだせなかったが、何度か試みたセイはやっと抜け出す事に成功する。
いつも夜中にはガルグが居るのだが、今回は疲れ果てて眠っているために居ない。
勿論、ガルグのことなど知らないセイは自分でも始めてみる扉の前に来ていた。
もしも、ガルグが居たなら止めたはずの扉である。
セイは好奇心と最後まで見ようという達成感を満たすために、扉を開ける。
そこには好奇心を無残な結果で返す証拠が残っていた。
かつて一緒に部屋に居た旧友を始めとする多くの子供達の変わり果てた姿がそこには存在していた。
かすかに残った顔が半目を開いた状態で液体の中に犯されているのだ。
普通のナチュラルやコーディネーターの子供であれば理解できない光景。
しかし、メンデルでは最高のコーディネーターを目指されて作られたコーディネーターの子供ばかりであり、この光景の意味が理解できてしまう。
到底セイも例外ではなくこの光景の意味が理解できるのだ。
セイは震えながらついに見つけてしまう。
サッシュ・・・いやサッシュだった物体を。
セイは思わず絶望と悲しみと怒りの悲鳴が部屋に響き渡る。
その悲鳴からすぐに一人の男がセイの目の前に現れた。
キワー:「そうか・・・君で何人目だろうか。ここを見つけ、悲鳴をあげた子供は」
この男の顔を見てさらに、セイは体中が震え上がった。
セイが震えるのは無理もなかった。
ユーレンの側近中の側近の男で有名なキワー・ダフトムが目の前に居るのだから。
自分もサッシュやここに居る仲間達のように殺される。
セイは全身にその考えがすぐに浮かんだ。
頭では逃げろと言っているが体が動かない。
キワーは恐れられている人物なのだから恐怖で体が動かないは無理もなかった。
セイは死を覚悟し、目を瞑る。
数秒後、セイは目を開けてたが、キワーはそこに居たままだった。
静寂は流れ、キワーから口が開く。
キワー:「早く自分の部屋へ行きたまえ。私は君の事を教授に話すつもりはない」
それだけ言うとキワーは去っていった。
セイはキワーが居なくなってから、動けるようになり部屋に戻った。
キワーが居なくなるまで動けなかったのは恐怖が体に焼き付いていたからだ。
部屋に戻ったセイは横になる。
セイは考えた先程の見た光景とキワーの言葉を。
あの光景は信じることしか出来なかった。
実際にサッシュやかつての旧友が居たのだから。
光景はともかく、キワーの言葉を信じる事が出来なかった。
研究者の言葉なんて信じられないのだ。
特にユーレンの近くに居る者は。
セイは心に誓う。
サッシュのようにはならない。
自分は生きてやる。
セイはそれだけ誓い、眠りにつくのであった。
あの光景はセイに生きることの執着心を与えたのである。
翌日からセイは人が変わったように自分から実験をされるようになっていった。
それはまるで研究者にとって都合のいい道具のようであった。
いつもなら実験中に涙を流すのだが、あの後セイは無表情で実験に耐えていったのである。
研究員にとって本当に都合の良かった失敗作であったため、研究員は特に気も止めなかった。
勿論、誰もセイの心の誓いに気づくはずもなかった。
自分から都合の良い道具を演じているのはわざとである。
セイは自分が生きるには?と考えた時、研究員にとって都合のいい道具になることしか思い浮かばなかった。
そして道具であるなら涙を見せてはならないと。
だからと言って、人間性が失われたわけではなかった。
心の中で密かに涙を流しながら、彼は研究員達への増悪を増していったのだから。
*
セイの決意からしばらく経った。
その際に数名の赤ん坊が行方不明になった事もあったが、そんな事はどうでもよかったのである。
今の研究員達、特ユーレンにとっては。
ユーレン:「ついに完成した。私の子供が成功した。ふふふふふふっははは!」
狂ったようにユーレンは笑っていた。
ついに完成したのだ。
ユーレンは成功体の子供をキラと名づけた。
もう一方のナチュラルの子供には母親であるヴィアがカガリと名づけていた。
二人は双子だったのだ。
しかし、そんなことが知るはずのない子供達は喜んでいた。
どういう理由かは知らないが実験は止まったのだから。
子供達の中でやはり、ガルグは詳細を知っていた。
成功体が生まれた事を。
ガルグはその事を知ってから、脱走するタイミングを計っていた。
奴ら研究員は成功体が生まれた事で緩みが出ている。
そして、最も隙が出来た時に脱走する。
それがガルグの考えた事であった。
その際には出来る限りの仲間を連れて・・・
やがてセイも知った。
暗い独りの部屋で閉じ込められている時に成功体が生まれた事を。
痛い実験から開放された事にセイは最初は喜んだ。
だが、来る日も来る日も独り。
やがて、セイの心は変わっていった。
独りで閉じ込められているということは実験や検査を受けている時より残酷なのである。
孤独感と同時に成功体に対し激しい嫉妬の感情が生まれた。
ただ、DNAが少し違うだけで自分は失敗とされ、酷い目にあっているのに何故キラは成功とされるのだ?
もう、自分は研究員から見れば捨てられたのだろうか?
もう、自分は生きる価値がないのだろうか?
もう、自分は成功体であるキラには敵わないのだろうか?
セイが様々な事を考えた時、キラへの憎しみが生まれ育つのに時間は掛からなかった。
いつかキラを自分のようにあった地獄へ突き落とす。
この目標がセイの生きる目標となった。
だが、この時ユーレンを始めとする多くの人物が知るはずもなかった。
ある人物がブルーコスモスに成功体が生まれた事を密告したなど・・・
END
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