「プロローグ19 ASTARYの開発経緯」




オーブ。 それは中立の国。
オーブ本国にあるオノゴロ島の地下工場でMSの開発に着手している者がいた。
その者の名はエリカ・シモンズ。
どちらかと言えば、彼女はサハク家の陣営である。
元々、モルゲンレーテ自体がサハク寄りというのもあるのだが。
彼女の手元にはZGMF−107ジンがある。
これはサハク家の陣営であるサキート・マ・コウスがザフトから特別に貰ったジンだ。
とはいえ、彼女が命令された事は難しい事であった。
ジンをコピーすることは可能だ。
しかし、ロンド姉弟から命じられたものは以下のようなものだった。

1.オーブを守るための高い攻撃力を保有する。
これは同時に小型ビーム兵器の実用化を意味していた。
2.高い生産性と汎用性の必要。
これはユニット交換式で何とかなりそうである。
3.ナチュラルでも操縦を可能にすること。
これが一番の難関のようである。

オーブ独自ではとても開発不可能であった。
だが、ある日にロンド・ミナ・サハクは恐るべき情報を持ってきた。

ミナ:「連合のMSを作る事になった」

この言葉はその場に居たエリカ、レミフォン、イリアンを驚かせた。
ミナが言うには、連合の特殊技術等に興味がわいたのだという。
その技術を加えれば、オーブのMS開発は飛躍的に上昇すると言う訳である。

エリカ:「ウズミ代表は承知で?」

ミナにとって触れてはいけない話題に触れてしまった。
エリカも口に出してから気づくがもう遅い。
ミナ:「ウズミだと!!あの老いぼれに何が分かるというのだ!!」

彼女は声をあげ、怒っていた。
表情からすれば、怒り狂っているとでも言うべきか。
エリカはミナの気迫に押され、口をあけることができなかった。

ミナ:「・・・・・ヘリオポリスにはギナが居る。随時、連合の技術情報を送る手はずになっている。エリカ・シモンズ、レミフォン・リーウ、イリアン・ヴィランよ、連合のデータを使用しMSの開発を命ずる」

3人は「分かりました」と言う事しか出来なかった。
そうすることしか出来ないような場であったのだ。
その後、MS開発は二手に分かれる。
ヘリオポリスでは連合の技術を使用し、スペック検証用カスタム機の製造、オノゴロ島では連合のデータをフィードバックして量産期の開発が行われることになった。
レミフォンとイリアンは作業効率を考え、ヘリオポリスへと移動した。
二人は表ではサハク家に従っているが、実はアスハ家に従っている。
その2人がMS開発をすることはマサカズも知っている。
だが、マサカズはウズミにそのことを教えていない。
オーブを守るためにはMSが必要という考えが、彼にもあったからである。
そのため、サハク家と考えはある程度一致していた。 マサカズ本人はウズミに対し、罪悪感はあったが、国を守るためには仕方ないと割り切っていた。

ギナ:「ほう。お前たちがエリカの下で働いていた者か。まぁ、期待しているぞ」

ヘリオポリスでの二人の上司はロンド・ギナ・サハクであった。
連合のMSを開発するその裏で、アスハ家陣営専用のMSを開発するなど困難だった。
さらに連合もオーブを信用したわけではなく、PS装甲の構造を手に入れることが出来ず、2人は困り果てていた。
ある日、ギナに極秘に現れたマサカズに相談すると、彼はある人物を紹介すると答えた。


マサカズが人物を紹介すると言って、数週間が過ぎた。
ギナがオーブに用事のため、向かった時に4人は面会した。

スライマー:「どうも、スライマー・ゼンヴィコスです」

彼は一部で有名な考古学者。
マサカズによると“ある仕事”仲間とのこと。
考古学以外にも、シークレットレベルのパスワード解読なども得意らしく、“PS装甲”の解読にも手伝ってくれるらしい。

マサカズ:「彼をギナから見つからないようにしてくれ。“例の隠れ場所”に生活するようにすれば大丈夫だと思う。そうそう、あの件は頼む」

それだけ言うと、彼は3人の目の前から去った。
マサカズの言う隠れ場所とはヘリオポリスの隠し工場の事である。
彼はレミフォン達にMS開発を依頼したが、ギナに知られずにMSを作る事は難しい。
そのため、密かに場所を確保した。
彼の依頼の大まかな内容は連合から手に入れた技術を駆使して、5機のMSを新たに作れというもの。
大変である事は彼も承知している。
だから、協力はするらしい。
勿論、裏からである。
それぞれの場所でMSの開発が行われていった。



コズミック・イラ70、11月中ごろ。
ついにスライマーはPS装甲の解読に成功した。
PS装甲とは、一定の電圧の電流を流す事で相転移する特殊な金属で出来た装甲ということが判明できた。
が、このシステムを搭載できた極秘機体は最終的に2機となった。
理由は解読に時間が掛かったことと、1月に起きる事件を知るはずもなかったからである。
OSの方はマサカズのようなコーディネーターが扱う事を前提に調整され、5機には彼の送った色々なデータから一風変わった武装やシステムが搭載された。
連合のMSの方はと言うと、開発は進んでいたがOSの問題点が未だ改善されていない。
OSを担当しているのはカトウ教授だが、成果は中々上がらなかった。
連合の作り上げたOSでは、ナチュラルの操縦を可能とするには程遠い。
アスハ家陣営では独自のOSを開発した事により成功し、モルゲンレーテ本社でもOSの改良されていたため、結果的に連合のMSのOSの未完成という状態なった。

さらにあれから時は過ぎた。
コズミック・イラ71、1月。
ついに連合、オーブの新型MSが完成した。
ヘリオポリスで作られたスペック実証機にはプロトナンバーを与えられ、予備パーツ状態のも含め5機が、極秘機体の方も一応完成したため、ロールアウトされる。
ただ、極秘機体の方は単純なミスによりナンバー1、2に付けられるはずだったPS装甲は4,5に付けられた。
このミスが後の運命に深く関わるようになるのだが。
ロールアウトを確認するとイリアンやスライマー達は工場を離れた。
これが後の運命を左右する事になろうとは誰も知らない。
一方、地上のオーブでは量産期のモデル1(M1)の生産が開始された。
そんなある日、M1の生産ラインを確認しに来たミナがエリカに向かってある事を言った。

ミナ:「この機体にお前が命名する名誉を与える」

それは光栄な事である。
自分の作った機体だから、当たり前というのもあるかもしれないが。
ミナの言葉を聞いて、エリカはある言葉が心をよぎる。

エリカ:『I was led astray by bad directions.“いいかげんな道案内で、私は道に迷ってしまった”』

エリカ:「・・・・・・・ASTRAY」

ミナ:「アストレイ?ほう、“王道ではない”ということか。まさにこの機体の名前に相応しい」

機体の名前はそのまま採用された。
ASTRAY。
王道ではないという意味はこの機体にピッタリの名前であった。
連合の技術を盗用して作られたMSにこれ以上相応しい名前はない。
実際、ASTRAYは名前に相応しく、数奇な運命を辿る。
世界の中心にはオーブがあるかのごとく。



END




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