「プロローグ12 3名の脱走」
地球軍はメンデル襲撃事件が過ぎてからも、戦闘用コーディネーターを作っていた。
ナチュラルのために作られる戦闘用コーディネーター。
メンデル襲撃事件から数年が過ぎた頃に、脱走者が出ていた。
その脱走者は戦闘能力に関しては最も高い数値を持っていた。
しかし、本格的なマインドコントロールを始める前に脱走。
地球軍は必死に脱走者を探した。
その期間は1ヶ月。
結局見つからなかったため、捜索は打ち切られた。
その男のナンバーはRA。
脱走のことがあったため、地球軍は戦闘用コーディネーターを作る際にマインドコントロールを中心に行うチームとマインドコントロールを行わないチームの二手に分かれた。
カナード:「はぁ・・・はぁ・・・」
彼の名はカナード・パルス。
メンデルの人工子宮で生まれた失敗作の一人。
彼はキラが生まれる前から地球軍に移された。
地球軍ではマインドコントロールが行われないチームに所属していた。
来る日も来る日も行われる戦闘訓練はカナードにとって苦痛でしかなかった。
苦痛に耐え切れずカナードは地球軍を脱走したのである。
???:「君は地球軍から逃げてきたのかね」
脱走して安心しきっていたカナードは驚いた。
こんな森の中に人が居ると思ってなかったからだ。
相手は地球軍に居た時に見覚えがないため、すぐに地球軍関係ではないと判断する。
カナード:「お前は?」
ストレートにたずねる。
しかし、相手は自分の正体については何も言わず、再び質問をしてきた。
???:「君は脱走してまで何が欲しい?」
自分が脱走したと分かったのなら地球軍か?
そう考えたカナードだったが、やはりそれはないと思いとどまる。
そして、質問に答えた。
カナード:「オレは自由が欲しい」
カナードの本心である。
地球軍には自由などないのだ。
だから、脱走してここまで来た。
いや、脱走した本当の理由は違う。
自由になりたいのは2番目だったからだ。
再びその男は質問をしてくる。
???:「君は自由が欲しいのか・・・自由になって何がしたい?」
また、質問か。
カナードは内心そう思いながらも質問には答える。
この男は何か力を感じさせるのだ。
質問に答えなければいけないような。
カナード:「研究所を出た時俺を作り出した人間を・・・いや世界の全てを破壊するつもりだっただが、それも意味あるものとは思えない」
逃げてくる時に考えは変わった。
そんなことをしてもどうにもならないと。
???:「以前は何故、世界を壊そうと思っていたのだ?」
少し体が震えた。
この男は聞かれたくないことが分かっているかのように質問を繰り返す。
カナード:「俺は研究員どもからみれば成果が出ず、失敗作だといつもオレは言われていた。だから許せなかったんだ」
そう、研究員達は何かあるたびにカナードを失敗作だと呼んだ。
その言葉を聞くと、黒髪の男は何か呟いた。
カナードには聞き取れなかったのだが。
???:「世界に対する復讐が無意味か。だが、安心しろ。それは別の人間がやるべきことだ。では君に一つ提案しよう。『本物』・・・になるというのはどうだね」
カナードは相手の男の言葉に驚いた。
失敗作の自分が本物になる?
カナード:「『本物』に・・・・・・なる?」
思わず言葉が出てしまう。
どうしたら、本物になれるのか?
そう考えていると、黒髪の男はカナードの求めていた答えを教えた。
???:「君が失敗作だというのなら成功体を倒せばいい。そうすれば君が『本物』だ」
カナードは誰が成功体なのか知らない。
知っているはずがないのだ。
カナード:「本当にオレが『本物』・・・になれるのか?」
カナードは知らないうちに自分から質問していった。
この男は自分の欲しい答えを知っている。
答えを知っているなら知りたい。
少し時間が経ってから男はカナードに微かに聞こえるように呟いた。
???:「・・・・・・キラ・ヤマト。それが君の倒すべき成功体のスーパーコーディネーターの名だ。
カナードは忘れまいと心の中でキラの名前を繰り返した。
キラ・ヤマト、キラ・ヤマト・・・・
カナードはもう一つ、聞きたい事があった。
カナード:「お前はいったい何者なんだ?」
???:「私はメンデルに関係する者だよ」
それだけ言うと、男は去っていった。
森の中へと。
カナードにとって新たな目標が出来た。
キラ・ヤマトという人物を殺す。
そう思った時に丁度地球軍の追っ手が現れる。
カナードは何も抵抗せずに捕まる。
オレは絶対にキラ・ヤマトを殺す。
それだけの思いを秘めて。
*
実はカナードが脱走してから、数分後2名脱走者が出た。
一人目の男はナンバーGV。
後にザフトの英雄と呼ばれる英雄ヴェイア彼である。
地球軍所属兵1:「探せ! あいつを探すんだ!カナード・パルスより、あいつを中心に探せ!」
ヴェイアは最も研究成果を出していた人物。
地球軍としても見逃せるはずのない戦闘用コーディネーターである。
地球軍所属兵2:「大変です。ナンバーGMも脱走されました」
二人目の脱走者はナンバーGM。
後に叢雲劾と名を変えることになる人物。
カナードは研究の実験体の苦痛に耐え切れず、脱走した。
しかし、ヴェイアと劾は違った。
二人に施された戦闘能力は完成度が高かった。
しかし、心理コントロール関係は不完全であったのだ。
今日、カナードの脱走を聞いた二人はこの隙を見計らって脱走を図ったのである。
カナードは元々、心理コントロールをあまり行わないところに居たため、それほど影響はない。
しかし、普通に考えて心理コントロールを受けた者が脱走するなど地球軍からすれば有り得ないことだ。
地球軍所属兵1:「馬鹿な・・・でも、捕まえるしかない!ナンバーGM、ナンバーGVを捕獲せよ!どうしても無理な場合は射殺も許可する。とにかく、どんな形でもいいから連れ戻すのだ!」
地球軍が彼らに必死になるのは理由がある。
地球の人々は地球軍がコーディネーターを軍に入れていることを知らないのだ。
そんなことが、世界中に漏れれば地球軍は消滅しかねない。
だから、彼らは必死になっている。
が、ヴェイアと劾は結局見つからなかった。
地球軍もしばらくは必死だったが、時が経つにつれ二人の存在は忘却の彼方へ葬り去られた。
二人は後にザフトの英雄、最強の傭兵と呼ばれる事になるとは知るはずもなかった。
END
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