「プロローグ11 穏やかな日々を奪った日」
サキートは物心がついたときからこの家に謎の男の人と二人で暮らしていた。
毎日が穏やかに過ぎていく日々。
牧場の牛達を見ながら毎日を過ごしていく。
生活していく日々の中でサキートは直感的に理解していた。
この男の人は自分の父親ではないと。
何せ自分は気づくとこの人をお父さんではなく、おじさんと呼んでいたのだから。
でも、サキートは気にしていなかった。
毎日同じような事の繰り返しだが、悪くない日々であるからだ。
それから、もう少しでサキートの6歳の誕生日が近づいたある日に運命は訪れる。
それは二人で晩御飯を食べていた時の事である。
ゴリアム:「サキートよ、誕生日プレゼントは何が欲しい?」
サキートと一緒に暮らすこの男の名はゴリアム。
かつてメンデルに居た研究者だ。
ブルーコスモスの襲撃の情報を密かに掴み、サキートを連れてメンデルをいち早く脱出した人物である。
サキートを連れて脱出した理由は、丁度襲撃の情報を掴んだ時に、近く居たのがサキートだったからだ。
ただの偶然で赤ん坊だったサキートは助かった。
その後オーブに移住し、貯めていた資金で牧場を買ってサキートと穏やかに暮らしている。
サキート:「僕の欲しいプレゼントは・・・」
欲しいプレゼントを言おうとしたとき、サキートに運命が訪れる。
一人の男が家に入ってきたのだ。
拳銃を持って。
彼らを見た瞬間ゴリアムはサキートの前に出る。
狙いがあるとすればサキートしかないからだ。
ゴリアム:「何だね!?君は!」
傭兵:「我々はサハク家から依頼された傭兵だ。その子供をサハク家に連れてくるように依頼されている。そこをどけ!」
サキートからすれば理由が分からなかった。
何故、自分がサハク家というところに行かなければならないのだろうか?
いくら考えようが、相手は銃を持っている。
下手に動けないのだ。
傭兵の言葉にゴリアムが言葉を出した。
ゴリアム:「悪いが退けない。サハク家がこの子を狙うとすればそれは・・・」
一発の銃声が鳴り響く。
サキートはあまりの音の大きさに目を瞑った。
誰かが倒れたのだ。
恐る恐るサキートは目を開ける。
撃たれた人物はゴリアムだった。
サキートは気が動転してゴリアムに声をかける。
サキート:「おじさん!おじさん!!」
だが、ゴリアムがサキートの言葉にピクリとも反応はしなかった。
ゴリアムは脳天を撃たれ即死していた。
サキートは泣き叫ぶ。
目の前の人が、身近な人が死んだのだから。
その後、傭兵はサキートの気を失わせ、サハク家に運ぶのであった。
同時にその家に隠されていたディスクと共に。
*
サキートは目を覚ました。
辺りを見回すとまるで皇族のようなお金持ちが住むような部屋だ。
もしかして、先程言っていたサハク家の家だろうか?
サハク家の言葉と同時にサキートはゴリアムが死んだことを思い出してしまう。
ゴリアムの事を思い出し涙を流そうとした時、後ろから声が聞こえた。
コトー:「気がついたか?」
サキートは涙を拭い後ろを振り返った。
そこにはテレビでよく見るような服を着た男が立っていた。
気を失う前の男やゴリアムの会話から、相手がサハク家である事は何となく理解していた。
サキートは本当にそうか確かめる。
サキート:「お前はサハク家の者か!」
声をあげて言葉を発した。
サキートの口調は質問という感じより、怒りの感情があらわになったような声だった。
その問いにコトーは答える。
コトー:「その通りだ。私の名前はコトー・サハク。オーブ五大氏族であるサハク家の当主でもある」
オーブ五大氏族と言う言葉にサキートは聞き覚えがあった。
オーブに住むものなら知っているはずの言葉であり、サキートも例外ではなかった。
言葉だけだが、聞いた事はあるからだ。
コトー:「サキート、ストレートで悪いが言わさせてもらう。お前は普通のコーディネーターではない。お前は人類の夢のために作られたスーパーコーディネーターだ。しかし失敗作だがな」
サキートはスーパーコーディネーターと言う言葉を聞いた瞬間に気分が悪くなる。
吐き気が襲ってきたのだ。
ただ、言葉を聞いただけなのだが。
コトーは話を続ける。
コトー:「君は約6年前メンデルで生まれた。親は不明だ。君の保護者は君を哀れに思い引き取った」
サキート:「やめろ・・」
サキートはコトーの話を聴けば聴くほど気分が悪くなる。
何故そうなるのかは自分でも分からない。
さらに加えて、頭に頭痛も襲ってくるのだ。
コトーはサキートの状態もお構いなしに続ける。
コトー:「そして、君はメンデル襲撃事件の前に持ち出されたため、今もこうして生きていると言うことなのだ。君は運命により生き残り、数多の犠牲の果てに生まれたスーパーコーディネーターなのだよ。それに君はこの話を理解できるはずだろう。」
サキート:「嘘だ!そんなのは嘘だ!」
コトーの言葉に対しサキートは否定する。
先程からの話は自分に関係なく思えない。
それにコトーの言葉がほぼ完全に理解できてしまっているのだが、信じたくはなかった。
自分が普通のコーディネーターではないと。
コトー:「嘘だと言うなら、何故君は保護者の事をおじさんと呼んでいたのだね?」
サキート:「それは・・・・・・」
サキートはついに反論できなくなった。
思い返せば、自分は物心が付いたときからおじさんと呼んでいた。
あの人からお父さんと呼べなど言われた事もなかった。
サキート:「たとえ・・・おじさんが本当のお父さんでなくても、お前は僕の帰る場所を奪った!」
サキートにとって、このことは紛れも無い事実。
目の前でゴリアムが絶命した事も。
コトー:「ならば、ここをお前の帰る場所にすればいい」
サキート「何だと!?」
コトーの思わぬ言葉にサキートは驚く。
まさか、そんなことを言うとは全く、想像していなかったからである。
コトー:「私は君を引き取ろうとしているのだよ。君に真実を知ってもらいたいからね。どうするかは君が選ぶことだ」
サキートはどうするか迷った。
頭の中で善(あるいは天使)は逃げろと言っている。
頭の中のもう一方である悪(あるいは悪魔)はこのままここに居ろと言っている。
普通に考えればここを逃げるべきだ。
相手は自分の大事な人を殺しているのだから。
だが、おじさんは真実を教えず、コトー・サハクは真実のことを教えた。
コトーの方が信用できる。
それに帰る場所も与えてくれる。
サキートにとって、ゴリアムの敵討ちより帰る場所が欲しかった。
敵討ちなら力を蓄えれば出来る。
そうサキートは決断した。
結果、頭の中での悪をサキートは選んだのだった。
サキート:「本当に帰る場所を作るなら、俺はここに居て、あんたの言葉に従ってもいい」
コトー:「いいだろう」
数年後サキートはコトーのことをお前などではなくお父さんと呼ぶようになっていた。
サキートにとって帰る場所を与えてくれる者が自分にとって大事な人なのだ。
彼は同じコトーの養子であるギナやミナとも仲良くなり、一部からは血のつながり以上の関係なのではないか?とまで思われたほどだった。
さらに彼は英才教育を多数受けていた。
それはギナやミナも同じ。
12歳になる頃にはもう大学を卒業レベルであった。
彼は時が過ぎる程にサハク家に愛着を増していた。
それ以上にギナとミナも。
やがて、彼はこう名乗った。
サキート・マ・コウスと。
自分はサハク家の養子でありながら、サハクの名を持たないという意味を込めて。
サハク家と対立するアスハ家には負けないと思いながら彼は今日も動く。
全ては来るべき新生オーブのために。
END
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