コックピットにリョウトが入って、数分が経過していた。
その3分でヒデトモは名も知らぬ少年に操作方法を教えた。
勿論、この僅かな時間でMSの操作方法を覚えろというのは酷だ。
そんなことは彼にも分かっている。
だが、時間を掛けている暇は無いのだ。

ヒデトモ:「私は後ろで・・・指示をする。いいか!Gを耐えねば・・・MSを動かせ・・・ないんだぞ!」

意識は朦朧としていた。
本当なら、コックピットに居るべきではない。
だが、彼を巻き込んだ。
軍人としては間違った過ちだ。
どうせ死ぬなら一緒に死のう。
そう考えたから、コックピットに居る。
賭けたとはいえ、自分が彼を巻き込んだのだから。

リョウト:「ああ!」






「エピソード4 動き出す瞳」



リョウト:「こいつを動かして・・・・みんなを、姉ちゃんを守る!!」

そう言い放ち、MSは動き出す。
この新型MSは、鉄火タイプのMSであり、名は鉄火撃(てっかう)。
射撃を中心に作られた鉄火タイプのMS。
他の鉄火タイプと比べるとスピードは遅いが、火力は高い。
とはいえ、いくらスピードが遅くても機体に掛かるGは相当なものだ。
空中に動かすだけでも、リョウトは息を切らしていた。
はぁはぁ・・・。
コックピットに響く。
始めてMSに乗るうえにパイロットスーツは着ていない。
唯一着ているとしたらヘルメットだけ。

ライク:「レーダーに反応?・・・!?あれで空中へ上がってくるとは・・・面白い!」

相手していたキミエ達を無視し、ライクは鉄火撃のところへと向かった。
やはり、強い相手と戦いたいらしい。
自分でも分かっている感情だったが、止めるつもりは無かった。
ここで止めたら後悔する。
そんな確証のない思いが、ライクを動かしていた。

ヒデトモ:「あの野郎!・・・左から・・来るぞっ!」

彼の指示通り、リョウトは機体を左側に向ける。
そして、標的を捕捉。

リョウト:「くらぇー!!」

ミサイルガンを両手で持ち、小型ミサイルを放つ。
この武装は両手で扱える武器である。
撃ったミサイルを1発。
もちろん、ライクは避ける。
ライクにとって、避ける事は簡単だった。

キミエ:「甘いっ!」

ライク:「不意打ちだと!?」

彼女は特攻覚悟で、中距離からミサイルを放った。
避けたところにも隙が生まれる。
少しでも、安心してしまうからあろう。
その攻撃は見事に直撃。
直撃した部分が、ブースターのある部分。
完全には壊れていないが、おかげでジンは空中制御が難しくなった。

ライク:「くそぉ!なんでブースターに!MA無勢がよくも!!!!!!」

彼はキミエへと刃の矛先を向けた。
しかし、この時にライクは致命的なミスを犯す。
敵に背を向ける。
それは戦場でしてはいけないことだ。
チャンスだと思ったリョウトはスピードを上げて、ランサーで仕掛ける。
スピードを上げた影響で、体にはかなりの重力が掛かっていた。
そんなことはリョウト自身理解していた。
このまま続けると意識が無くなるかもしれない。

リョウト:「でも、そんなの関係ねぇ!」

今は姉を、家族を守る。
その思いがリョウトに力を与えていた。

ヒデトモ:「今だっ!!」

ランサーはジンの右脚を貫く。
コックピットへ当たらなかった理由は、リョウトがためらった事、ライクが機転を利かして回避した事にある。
それでも、バランスを崩した事に変わりはなかった。

ライク:「何!?機体制御不能だと・・・・仕方が無い!」

彼はジンを捨てて、脱出した。
ここでライクを撃てていれば、今後の状況は多少変わったかもしれない。
しかし、先の未来を知る者はその戦場にはいなかった。
リョウトは、ライクの乗り捨てたジンへと向かっていた。
ペダルを踏み、スピードを加速していく。
このまま落ちれば、街に被害が出る。
それだけは防がねばならない。
その一心で限界に近かった彼を動かしていた。
もう、後ろからの指示は無い。
眠っているのか、死んでいるのかリョウトには確かめる術は無かった。
堕ちていたジンを何とか、鉄火撃の両手で受け止める。

リョウト:「う・・・どこか・・・・降りられ・・る所へ」

さらにGの掛かる中、リョウトは降りる場所を探した。
自分の通う学校が近くにあったが、そこはやめた。
クラブ活動をしている可能性が高いと考えたからだ。
それ以前に、避難しているだろうが。
リョウトはそこまで頭が回らなかった。
彼は自分の出身である小学校を降りる場所に決めた。
ここなら、人は少ない。
それにこんな暗さであれば、先生くらいしかいないだろう。
勝手とも言える判断だったが、実は間違いは無かった。
その日はインフルエンザの流行により、数日前から学級閉鎖で欠席するという奇跡的な状態が起きており、学校関係者は下校していたのである。
つまり、学校には誰も居ないのだ。
だが、リョウトはそんなことを知らない。
偶然が重なった。
それだけ。
学校に降りると彼の意識は無かった。
キミエは鉄火撃の元へと向かう。
コックピットに居たのは少年、後ろに自分の隊長であるヒデトモ。

キミエ:「まさか、この少年が・・・・・・しまった!すぐに病院に運ばないと!」

彼女はその少年とヒデトモを病院へと連れて行った。
戦闘機ではなく、地上に居た彼女の仲間の車で。
すぐに病院へと付き、処置室へと運ばれた。
彼女には二人の無事を祈る事しか出来なかった。
やがて、看護婦が彼女の元へと知らせに来る。
その頃にはキミエは疲れ果てて寝ていた。
彼女の寝顔は、とても先程まで戦闘していたとは思えないほど、安らかに眠っていた。



END



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