福岡とほぼ同時期の北海道。
雪降るこの地域に戦乱は舞い降りようとしていた。
ここに後の運命を狂わされる人物が居る。

リョウト:「早く、家に帰らないと・・・・」

彼の名はリョウト・アオキ。
漢字で書けば、青城亮人である。
彼は中学3年生の15歳。
このくらいの時期と年齢になれば受験勉強くらいするものだが、彼はする気がなかった。
別に高校へ行かなくても、どうにかなる。
そんな考えを持っていたからだ。
両親には夢がない、と言っているが本当は軍人になりたかった。
男というのは戦いが大好きなのだ。
と彼は考えている。
だから、毎日の体を鍛える訓練は欠かさない。
そのこともあり、家へ走って向かう中、途中で姉を見つける。

リョウト:「ユカリ姉ちゃん!」






「エピソード3 雪降る夜の空」



ユカリ:「あ!リョウちゃん!」

彼女の名はユカリ・アオキ。
漢字で書けば、青城由香里。
モデルとして活躍し、雑誌の表紙などもよく飾っている。
テレビにも出演する有名人だ。
毎日を忙しく暮らす彼女は、時間が出来れば定期的に、実家へ帰ってきている。
両親と弟が心配なのだ。

リョウト:「どうしたの?いつもなら連絡してからこっちへ来るのに」

ユカリ:「たまには驚かそうと思ってね。思春期のリョウちゃんも私が気になるでしょう?」

彼女は思春期真っ只中のリョウトをからかう為に帰ってきていると言っても、過言ではない。
ユカリが思春期のリョウトに対し行った悪戯は数知れない。
そのせいか、リョウトは恋愛に奥手なのだ。
こういう姉を持ったからなのかもしれない。

リョウト:「分かったから!もう家に帰ろう」

放っておくと、何を自分にしでかすか分からない。
ならば、早く家に帰ってしまおう。
そういう結論に至ったリョウトはそそくさと家へ帰り始める。
一方のユカリはアクセサリーショップを外から見ていたりと付いてくる気配すらなかった。
彼がそのことに気づいたのは家から700メートルくらいであった。

リョウト:『はぁ〜。ユカリ姉ちゃんを早く探さないと!』

彼が思った瞬間だった。
空が突如光る。
街にいた人、リョウトやユカリも含めて一斉に空を見上げる。
その光景を見た一人の男性は叫び声を上げた。

市民:「あああ・・・・あれはモビルスーツだ!」

その言葉を聞いたものはパニックとなった。
MSといえば思い浮かぶのはプラント。
ここにMSが居るということは、ここも戦場になる。
そう思ったからだ。
逃げ惑う人々。
その中にはユカリの姿もあった。

ユカリ:「リョウちゃん!リョウちゃん!」

彼女は必死に探した。
たった一人しかいない弟を。
しかし、見つかるはずもなかった。
彼は別の場所に居るのだから。

リョウト:「すげぇ!あれがMSかぁ〜!」

焦る姉のことなどつい知らず、リョウトは歓喜に震えていた。
まさか、テレビ以外でMSを見られるとは思っていなかったからだ。
この目で。
彼は逃げずに空を見上げていた。
MSに乗って戦う者の気持ちを理解しようとせずに。

ライク:「ちっ!日本にこんなMSが存在していたとは・・・」

ヒデトモ:「こいつ!強い・・・。何者だ!?」

空で2機のMSが激突していた。
1機は改造されたジン。
もう1機は特殊なMS。
サーベルとランサーが重なり合い、空で火花と騒音を散らせる。
重なり合った後は互いに後方へと下がり、再び攻撃をかける。

ヒデトモ:「くそっ!ここじゃあ、満足に戦闘が出来ない!」

下に街があることくらいヒデトモ・ハシジマ(橋島秀智)は理解していた。
当初は、山奥で決着をつけようと思っていたが、状況は街の上での戦闘状態。
下手に撃墜すると市民に被害が出かねない。
だからといって、下手に離れれば市民を人質にされかねない。
彼はどうするべきか迷っていた。

ライク:「動きを止まった!?今がチャンスか!」

ヒデトモはどうするか考えていたあまり、動きを止めてしまったのだ。
その隙をライク・アセンは見逃さなかった。

ヒデトモ:「しまった!?」

ライク:「もらったあ!!!」

リョウトは瞬きをせずに見ていた。
その光景を。

ライク:「何っ!?」

リョウト:「避けれた?あの距離で?」

特殊なMSの方はなんとか避けたのだ。
しかし・・・。

ヒデトモ:「無理な避け方をしちまったか・・・」

無理な避け方にヒデトモの体に何倍ものGがかかり、体に多大なダメージが襲う。
このことにより、まとな操縦は不可能となる。
MSの扱いが慣れていないヒデトモには無理すぎたのである。

リョウト:「え!?墜落してくるのか!?」

無理な避け方の反動はリョウトに襲おうとしていた。
偶然か、リョウトの居るところに向かってヒデトモのMSは落ちようとしていた。
その様子を見て、逃げるリョウト。

ライク:「ふん!とどめを・・・な!?」

彼は不意打ちされた。
攻撃された方角を見ると、1機のMAと数機のMAが浮いていた。

キミエ:「ハシジマ先輩は私達が守る!」

ライク:「次から次からへぞろぞろと・・・終わりにしてやる!」

攻撃をしたのはヒデトモの部隊のメンバーであるキミエ・スウビ(枢美姫美江)。
ヒデトモが最も信頼している女性だ。
こうして空では新たなる戦いが始まっていた。

ヒデトモ:「くう・・・俺は・・・」

彼は落下した際に大きなダメージを負った。
出血はしていないが、とてもMSに乗って戦える状態ではなかった。
周辺を見ると、一人の少年を見つける。
逃げずにこんなところに居る少年を。
逃げるどころか、こちらに向かってきているではないか。
避難させねばと思い、コックピットを開ける。
その少年は彼へと近づき、話しかけてきた。

リョウト:「大丈夫?おじさん」

自分はおじさんではない!と言いたかったが、もうそんな気力はなかった。
とにかく、安全を確保する事を優先しなければ。

ヒデトモ:「う・・・何故こんな・・ところに居る?・・・早く避難せんか!」

正直言って、話すのもやっとの状態。
だが、これで避難してくれるだろうと彼は思った。
リョウトの瞳は、輝いていたことに気づかずに。
5秒経っても、彼は避難しようとしない。
また言わねばならんか。
そう思い口を開こうとしたときであった。

リョウト:「おじさん、オレにMSの操縦方法を教えてくれ!」

あまりの言葉にヒデトモは咳き込んだ。
今の状況でこの少年は何を考えているのだろうか?
これはゲームではなく、実際の戦闘だと言うのに。
そんな重いが頭を駆け巡る。

キミエ:「普通の兵士じゃない!この状況が続けば・・・」

だが、状況は悪い。
空ではかなり追い詰められていた。
このままでは、キミエを始めとする部下達を死なせてしまう。
彼は決断した。
軍人としては有り得ない事だ。
それ以前に、軍人失格だ。
今からやろうとしていることは。

ヒデトモ:「そこまで・・・言うのであれば・・・教える。ただし、死んでも知らん・・・ぞ?」

彼は頷いた。
その目に賭けたのである。
自分だけ、生き残っても仕方が無い。
ならばせめて、賭けてみよう。
そんな思いが彼を動かした。
名も知らぬ少年を信じて。



END



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