ナタル:「キラ・ヤマト!無事なら応答しろ!」

マサカズが彼らの前を去って、間もない頃。
キラはまだ応答できずにいた。
目の前でヘリオポリスが崩壊した事はショックなのである。
コロニーの崩壊を目の当たりにしたのだから、仕方のないことではある。 やがて、ナタルの声が彼に届いた。

キラ:「こちら、X−105ストライク。キラです」

その声を聞いて、ブリッジのクルー達の顔に安心の表情を浮かべた。
問いかけてきたキラに対し、ナタルは「無事か?」と聞き返す。
すると、キラからは「はい」と返ってきた。
しばらく通信越しの会話をすると、ナタルは通信を切った。

キラ:『父さん、母さん・・・無事だよな』

両親の事を案じるキラ。
しかし、この状況では無事かどうかも分からない。
それでも、無事だと思い直す。
レバーを動かし、アークエンジェルへ戻ろうとした時、救難信号の反応がする。
周辺を見ていると、救命ポッドを発見。
発見したキラは右手に持っていたソードを背中に戻し、救命ポッドの元へと向かった。

ムウ:「これから、どうする?」

ブリッジでは、次の行動についての話が始まっていた。
レーダーは現在当てにならない。
ヘリオポリスの残骸が邪魔をするからだ。
だが、それは敵も同じ事。
これからどうするか、迷うマリューに対し、ムウは質問をし続ける。
現在の人手不足で戦闘になったら、ほとんど勝ち目が無い。
ならば、振り切るか?
いや、振り切れる保証は無い。
敵はナスカ級の戦艦だから。
ちなみにナスカ級の戦艦は高速移動が可能な戦艦で現在のザフトの主力戦艦である。
では投降するか?
これもまた、一つの道だとムウは話す。
そんなことを話しているとナタルの声がブリッジに響いた。

ナタル:「何だと?ちょっと待て。誰がそんなことを許可した?」





「PHASE−6 サイレントラン」



ブリッジに響くナタルの声。
何事かとマリューはたずねる。
すると、ナタルはストライクの状況を伝えた。

ナタル:「ストライク、帰投しました。ですが、救命ポッドを一隻保持しています」

この答えにマリュー達も驚く。
こんな時に救命ポッドという厄介な代物を持ってきたからだ。
一方のキラの方も困っていた。
救命ポッドを持ち帰る事を認められないのだ。

キラ:「推進部が壊れて、漂流していたんですよ。それをまた放り出せと言うんです?避難した人達が乗ってるんですよ」

彼は必死に説明する。
こんなところで放り出せるはずはない、と。
しかし、ナタルは拒否。
軍人として見れば正しい判断だ。
人として見た場合は正しい判断と言えないだろうが。

ナタル:「すぐに救援艦が来る!アークエンジェルは今戦闘中なんだぞ。第一、それはヘリオポリス宙域へ向かったライモート大佐にでも連絡すれば、すぐに来てくれる!」

この問答はしばらく終わりそうにない。
溜息をつきながら、マリューは救命ポッドに関して許可した。
どうしてか、と聞いてくるナタルにマリューは答えた。
今、こんな事をもめて時間をとりたくない。
それはそうだ。
戦闘中で敵が近くに居るかもしれないのなら、なおさらである。
マリューは収容を急ぐように促した。
納得はいかないが艦長の言葉であるためナタルは、分かりましたと答える。
彼女の指示に従い、救命ポッドの収容に入るキラ。
一方で、マリューはクルー達に自分の意思を伝える。
投降する気はない。
ストライクとアークエンジェルは守り通す。
ザフトに渡す気はなく、何としても大西洋連邦に届ける、と。
そこへナタルは提案する。

ナタル:「艦長、私はアルテミスへの入港を具申いたします」

アルテミスとはユーラシア連邦の宇宙要塞である。
大きな特徴としては「傘のアルテミス」という異名を持ち、友軍でない戦艦が通る場合は通行費を奪う、少々問題のある要塞でもあった。
彼女は要するに、アークエンジェルから最も近い友軍はアルテミスだと言っているわけである。
しかし、マリューはすぐにOKとは言えなかった。
アークエンジェルもG(ストライク)も、友軍の認識コードを持っていないのだ。
彼女の心配を見抜いたナタルはそのことも承知しています、と伝えた。
だが、このまま月に行くよりは安全なのだ。
物資の補給もままならない現状。
ナタルの言う事は確かだ。
結局、ブリッジクルーの話し合いの結果、アルテミスへと向かう事となった。

マリュー:「艦が発見されるのを防ぐため、慣性航行へ移行!第二戦闘配備!」

彼女は艦長として指示する。
言い終わった後、ムウは一人呟く。

ムウ:「アルテミスまでのサイレントランニング・・・およそ2時間ってとこか。後は運だな」

ブリッジで行動も決まった頃。
格納庫ではこんなやり取りが行われていた。

フレイ:「あ、あなた!サイの友達の・・・」

キラ:「フレイ!フレイ・アルスター?このポッドに乗っていたなんて・・・」

救命ポッドから出てきたのはフレイ。
フレイ・アルスターという少女だった。
キラ達の1つ後輩に当たる彼女は、一応だがキラのことを知っていた。
ガレッジのアイドル的存在で、キラの初恋の相手でもある。
そして、彼女は後々、キラに多大な影響を与えることになっていく。
誰もそうなることなど今は予想できるはずもなかった。

フレイはキラの姿を確認すると、キラの元へと寄って来た。
混乱しているらしく、この艦をザフトの物だと思っているようだ。
その原因はMSのせいも大きいようである。
普通に考えれば地球軍側にMSがあるというのは考えられないからだろう。
混乱しているフレイに対し、キラは、ここは地球軍の艦であると説明すた。
サイやミリアリア達が乗っているとも。
などと話すと、落ち着きだすフレイ。
やがて、キラは彼女を食堂へと連れて行った。

フレイ:「サイ!」

フレイは真っ先にサイへと抱きつく。
婚約者同士なのだから当然と言えば当然の事だ。
だが、これにはミリアリアも疑問を抱く。
その疑問はトールが答えてくれた。
二人は恋人同士らしい。
キラは少しがっかりしながらも、一安心する。


アデス:「よもや、こんな事態になろうとは・・・これでは評議会も」

ヴェサリウスのブリッジ。
さすがにこうなれば、評議会も黙っていない。
中立のコロニーを破壊したのでは、たたごとではすまされない。
だが、クルーゼいわくヘリオポリスは中立ではないと主張する。
何故なら、地球軍のMSを作っていたからだ。
さらに彼はまだ地球軍の新型艦を追う気であった。
データの取り出しは終わった。
ならば、後は使うだけ。

クルーゼ:「ガモフにも捜索範囲を広げるように打電しろ」

そう言うと、次の行動についての会議が行われた。
敵艦がどこへ向かうか。
月へ行く可能性とアルテミスへ行く可能性。
どちらとも有りえる話だ。

クルーゼ:「ヴェサリウスは先行し、ここで敵艦を待つ。ガモフには軌道面誤差のコースを密にしながら追尾させろ」

彼は敵艦がアルテミスへ向かうと予測しながらプランを立てていく。
そこへ熱源を感知した報告がなされる。
その熱源の予測コースは大西洋連邦本部。
が、これはアークエンジェルの囮。
デコイというミサイルを使っての囮だった。
月へ向かうと見せかけた作戦である。
しかし、そのことを見抜いたクルーゼは再び指示をする。

クルーゼ:「これは囮だな。これでより確信したよ。ヴェサリウス発進だ」

ブリッジでそんなやり取りが行われていたが、アスランはベッドで仰向けとなっていった。
やはり、キラがストライクに乗っていたのはショックだった。
さら、隣に居るはずのラスティはもういない。
彼とミゲルは戦死したのだ。
しかも、ミゲルは自分の目の前で、なおかつキラという親友に殺されたのだ。
相手がキラと知らなければ、自分はストライクを撃っていたはずなのに。
これから自分はどうすればいいだろう。
などと考え込むアスラン。
しかし、すぐに答えが出るはずも無く、ただ考える事しか出来なかった。


進路を変更し、アルテミスへと向かうアークエンジェル。
サイ達はこの状況について話し合っていた。
そんな中、フレイがこのような発言をする。

フレイ:「この艦にいる方が危険じゃないの!」

少なからず、この言葉はキラを悩ませた。
フレイが乗っていた救命ポッドを持ってきたのは自分なのだ。
これに対し、ミリアリアは「壊れた救命ポッドの方がましだった?」と聞き返す。
他に返す言葉のないフレイはそうではないと話す。

ムウ:「キラ・ヤマト!」

そこへ突然、キラを呼んだのはムウ。
何でも、マードック軍曹が怒っているらしい。
人手が足りないんだから、“自分の機体くらい自分で整備しろ”と。

キラ:「ちょっと、僕の機体って・・・どういうことですか!?」

どうして、また自分があれに乗らなければいけない?
仕方がないと思いつつ、2度目もあれに乗り、戦った。
だが、自分は軍人ではない。
あくまで民間人なのだ
その自分がこれ以上MSに乗る必要はない。
そう言い張るキラ。
しかし、ムウは彼をMSに乗せるために現実を言った。

ムウ:「いずれ、また戦闘になる。その時に君は、今度は乗らずにそう死んでいくか?」

彼の言葉は、はっきり言って脅しに近かった。
自分が戦闘に出てこの艦を守らなければ、サイを始めとする友人達やこの艦に乗っている人達がみんな死ぬ。
艦を守れるのは自分とお前だけと話すムウ。
出来るだけの力を持っているから?
自分しか、あのMSを操縦できないから?
色々なことが頭によぎる。

キラ:「待ってください!あなた以外にマサカズがいるはずでは!?」

ムウ:「残念だが、あいつはヘリオポリス宙域へ向かった。人命救助のためにな。それに、あいつがヘリオポリスに居たのはラッキーなんだぜ?あんな大物に会える機会は滅多にないし、忙しい奴だからな」

言った後にムウは言葉を付け加えた。
彼は自分の考えで行動する以外では、報酬を受け取ることで仕事に就く。
いわば傭兵に近い人間だ。
今のアークエンジェルではそんな報酬を払える金額はない。
それにヘリオポリスを破壊したのは結果的に自分達のせいだ。
だから、彼を引き止める権利は自分達にはないと。
などと話すと、ムウは立ち去ろうとする。
立ち去ろうとするムウにサイはたずねた。

サイ:「あのこの艦、どこへ向かってるんですか?」

正直にムウは、ユーラシアの軍事要塞へ向かっていると言った。
嘘をついても仕方がないのだから。
とはいえ、すんなり入れるとは思っていない。
自分の思いを話すと今度こそムウは立ち去る。
彼が立ち去ると、キラもその場から離れた。

フレイ:「何?どういうこと?あのキラって子・・・」

彼女の気持ちが分かるサイは説明する。
あのMSに乗っていたのはキラだと。
だが、それだけではフレイの疑問は解決しない。
ナチュラルである(彼女が思い込んでいる)キラがMSを操縦できるものなのだろうか?
フレイの疑問に答えを言ったのはカズイだった。

トール:「キラはコーディネーターだからね」

彼の発言を聞いたトールやミリアリア、サイの表情が変わる。
どうして、このタイミングでそう言うことを言うのか?
彼らから睨まれたカズイは、みんなから目をそらした。
誤解を与えなように、すぐにサイはフレイに話した。
キラはコーディネーターだ。
でも、ザフトじゃない。
そこへミリアリアが言葉を付け加える。
私達の仲間、大事な友達よと。
彼らがそんな事を話している頃、キラは格納庫へと来ていた。
そして、ストライクを目の前にして寂しげに呟く。

キラ:「MSが動かせるからって・・・戦争が出来るってわけじゃない」


アスラン:「アスラン・ザラ出頭いたしました!」

クルーゼ:「ああ、入りたまえ」

二人はクルーゼの部屋に居る。
アスランが呼ばれたのは、もちろん前回の命令違反の事だ。
彼が命令違反するような人間ではない。
そのことはクルーゼも知っている。
だからこそ、理由を聞きたいのだ。
手を握り締め、アスランは正直に話すことにした。

アスラン:「あの最後の機体・・・。あれに乗っているのは、キラ・ヤマト・・・。月の幼年学校で私と友人だった、私達と同じコーディネーターです・・・」

このとき、アスランは気づかなかった。
クルーゼの隠された表情に。
彼は表に出さなかったが、内心驚いていた。
まさか、ここでキラの名が出るとは思っていなかったからだ。

アスラン:「あのような場で再会するとは思わず・・・、どうしても確かめたくて・・・」

クルーゼ:「そうか・・・。戦争とは皮肉なものだな。君の動揺もいたしかたあるまい。仲の良い友人だったのだろう?」

はい、と答えるアスラン。
そう聞くと、クルーゼは次の出撃を外すとアスランに言い放った。
さすがのアスランも思わず、驚いた。

クルーゼ:「そんな相手に銃口は向けられまい。・・・私も君にそんな事はさせたくない。君のかつての友人でも、今、敵なら我らは撃たねばならん。それは解ってもらえると思うが」

アスラン:「キラは!・・・あいつはナチュラルにいいように使われているんです!あいつ、優秀だけどぼーっとしてお人好しだから、その事にも気づいていなくて・・・だから、私は説得したいんです!!アイツだってコーディネーターなんだ!こちらの言う事が解らないはずありません!」

説得したいと申し出るアスラン。
熱意がこもっている。
彼の言っている事は嘘ではないだろう。
だが、クルーゼはもしもの事態を考え、アスランにつきつけた。
もし聞き入れないときは?
少し時間が経って彼は答えた。

アスラン:「その時は・・・・・・・・・・・・私が撃ちます!」


一方でアークエンジェルは第一戦闘配備となっていた。
食堂に居たミリアリア達はある事を決意し、食堂とは別の場所へと向かう。
そして、キラはトール達と通路で出会う。
彼らは軍服を着ている。
艦の事を手伝いたいらしい。
それが彼らの出来る事。
軍服はザフトの方がいいと話すトールをチャンドラは怒る。
少し話をすると、彼らはブリッジへと向かっていく。
去り際にチャンドラはキラに言葉をかけた。

チャンドラ:「ああ、お前もまた出撃するんなら、今度はパイロットスーツを着ろよ」

彼らもまた戦っている。
ならば、自分も出来る事をやろう。
キラはパイロットスーツを着替えに向かった。

ムウ:「とにかく、艦と自分を守る事だけ考えろ」

スーツを着替え終わったキラとムウは格納庫に居た。
それぞれの機体に乗り、この艦を守るために。
ストライクへ向かう際、キラはアスランの事を考えていた。
この艦を沈めに来るかもしれないかつての親友の事を。

ムウ:「ムウ・ラ・フラガ、出る!戻ってくるまで沈むなよ!」

先に彼が出る。
作戦はムウが隠密に先行し前の敵を撃つ。
その間自分が後方の敵から艦を守る。
うまくいくのか心配だ。
そこへミリアリアの声がした。
これからは彼女がオペレーターをするらしい。
ふと、キラの顔にも笑顔がこぼれる。
ナタルはストライクの装備をエールストライカーパックと指示しつつ、キラにも指示していく。
ブリッジでは、メインエンジン噴射とローエングリンの発射を艦長が指示。
次にナタルが指示された事を行う。

クルーゼ:「先の言葉を信じるぞ、アスラン」

ヴェサリウスからはイージスが出撃していた。
MSの熱源を感知すると、ストライクも発進準備に出る。
コックピットの中で、キラは思い出していた。
ムウの言葉、トールやミリアリアの言葉を。
ついに発進準備が完了し、出撃する。

キラ:「キラ・ヤマト、ガンダム行きます!」

出ると同時に、ストライクが色づく。
キラは艦を守るために宇宙へと出たのだった。





END
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