コロニーヘリオポリス。
崩壊後もこの宙域で戦いが起きていた。
オーブが極秘に開発したMS“ASTRAY(アストレイ)”を巡って。
今、青いアストレイを操縦している劾は外へと向かっていた。
理由は依頼主に裏切られ、ピンチになっているイライジャを助けるためだ。
彼は外に出ると母艦へと通信を送る。
そこで分かったのは、敵が20機以上いるということ。
MSとMAの差は1:3または1:5と言われている。
場合によっては1:10以上だ。
しかし、いかにMSと言えど、敵が20機以上ではリンチとも言える状況になる。
現在イライジャは6倍もの数と戦っているため、彼が焦るのは劾にも理解できた。
劾:「リード、友達はそばに居ないのか?」
リード:「居るにはいるだろうが・・・援軍は送ってくれないと思うぜ」
彼らの言う友達とは地球軍の事だ。
リードは元々地球連合に所属していた。
そのため、人脈が広く、辞めた今でも続いているらしい。
劾:「連絡を取るだけでいい。秘密めいた話をしてくれればなおさらだ」
彼がこう言うのはもちろん、訳がある。
依頼主にとって厄介なものは増援と考えたからだ。
普通に言えば、地球軍は来ないかもしれないが秘密めいた話をすれば来る確率は上がる。
戦力的にもだが、「何故戦っていたのか?」という疑問を持たれる。
そうすれば、最終的にASTRAYへと繋がるのは難しい事ではない。
リード:「了解だ。しかし、いいのか?せっかくの敵を追い払っちまうと活躍の場が減っちまうぞ? それにイライジャから援軍を早く呼べって、うるさかったからマサカズの方へも連絡を入れちまった」
劾:「傭兵は勝てる戦いだけを行う。英雄を気取って負けるよりはずっといい。マサカズが援軍として来るとしても、時間は掛かる。まぁ、奴が来れば、勝率は上がるだろうがな」
この話で通信を終えて、劾はイライジャのところへと急いだ。
操縦に何の違和感も感じないこの青いアストレイと共に。
「PHASE−5 ジャンク屋と傭兵」
イライジャ:「くそぉー!!!」
多数のメビウスがイライジャとホームを襲う。
正直攻撃を受けるだけで精一杯だ。
20機以上もいるのでは、1機を落とすだけでも、厳しい。
これはイライジャでなくとも、当たり前だ。
プロフェッサー:「何よ、アンタ傭兵じゃないの?もう少し、びりっとと戦えないわけ?アタシを守ったら金くらい払うって言ってるんだから」
イライジャへと通信を送ったのはプロフェッサー。
さすがに彼女といえど、命は欲しいから、そのような言葉が出たのだろう。
だが、戦いはさらに不利な方向へと進む。
もう駄目だ!とイライジャが思ったときだった。
敵の動きが一瞬止まったのである。
そして、10機を残し、他のメビウスは撤退した。
イライジャ:「一体、何があったんだ・・・・・・」
これは劾がリードに取らせた作戦の結果だった。
やはり、敵は援軍を恐れてたのである。
残り10機を残したのは、この数ならば必ずイライジャ達を殺せると思ったからなのだろう。
だが、その目論みは一瞬で爆炎となっていった。
ヘリオポリスの方向から、放たれたビームがメビウスを襲ったのだ。
標的は10機あるうちの1機。
その1機は宇宙に消えた。
劾:「間に合ったか!」
すぐに通信が入る。
それはイライジャが待ちに待った通信の相手。
自分の最も信頼できる人物。
叢雲劾、その人だった。
イライジャ:「そのMSは?それがターゲットなのか?」
劾:「話は後だ、奴らを!裏切りは許さない!」
傭兵は雇われて戦い、報酬を受ける。
それゆえに裏切りにあうこともあるのだ。
劾達もこればかりは、無いと言えない。
しかし、乗り切る事でまた強くなる。
幾度となくこのような事態を乗り越えてきたからこそ、今がある。
ここから、彼らサーペントテールの反撃が始まった。
*
ジャンク屋:「これか・・・高く売れるな」
ヘリオポリスの奥の区域。
それはマサカズとサキートが数時間前に居た場所より、ずっと奥だ。
そこで男は呟く。
キゴル:「さぁな」
もう一人の男が話す。
わずかな言葉しか発せられなかったが、その口調は残虐性が感じられる話し方だ。
ジャンク屋:「だからって、お前はやりすぎだ。1人の人間にどれほど撃てば気が済む?無駄な銃弾を」
そう、その者はここに来るまでに数十人の人間を殺した。
1人に対して、何発もの銃弾を撃って。
この行動から男の残虐性が感じられる。
キゴル:「無駄ではない。俺のために犠牲となったのだ。人を殺す時の快感は忘れられなくてな!」
1発、いや数発の銃声が鳴った。
撃たれたジャンク屋の男はすでに絶命している。
一方で撃った者は、MSに乗っていた。
すぐにシステムチェックを始める。
キゴル:「俺との相性48.5%・・・データ異常有り。システム変更・・・」
*
イライジャ:「うっ!」
彼のジンは相当のダメージを受けていた。
先ほどの撤退の時、大変危なかったのはそのためだ。
そして、今攻撃が当たり、コックピットに衝撃がおよぶ。
劾:「下がってろ!後は俺がやる!」
イライジャの危険を察知した劾は通信越しにそう言った。
そう聞くと、イライジャは後退する。
ここからメビウス数機と劾の戦いとなった。
四方を取り囲むように攻撃をしたところで、劾には全く当たらない。
どうやら、劾と青いアストレイの相性が良かったらしい。
プロフェッサー:「自分の命がかかっているとはいえ、案外やってるじゃない・・・?あのMSが『お宝』だとしたらどえらいモノを見つけたもんだね。こりゃあ、ただの拾いモノって訳には――いかないかもね」
1分も経たないうちに、敵は1機となった。
だが、ここでその1機は予想外の行動へと移した。
なんと、ジャンク屋の母艦であるホームへと向かったのだ。
おそらく、ジャンク屋の船を劾達の母艦と勘違いしたのだろう。
劾はメビウスを狙撃しようとビームライフルを構える。
気がつくとビームライフルに回せるエネルギーは、1発分しかない。
さすがの劾でも緊張する。
ここで外すわけにはいかない。
狙いを定めトリガーを引こうとする劾。
劾:「・・・・・・・・・・・・!?」
しかし、次の瞬間、劾の目は驚きに見開かれた。
自分はビームを放っていない。
だが、最後のメビウスにシールドが直撃した。
もちろん、シールドが当たったくらいで壊れるメビウスではない。
それでも劾は驚く事しか出来なかった。
そこに現れた赤いMSを含めて。
劾:「まさか・・・・・・」
シールドの飛んできた方向へと目を向ける。
そこにあったものは、自分の予想の範囲内の物だった。
ロウ:「俺の船に手を出すなァ!」
ヘリオポリスの方向から、現れたのは赤いMS。
それは劾のアストレイに似ている。
理由はもちろん、同型機であるからだ。
劾は思わず、心の中で叫んだ。
もう1機見つけていたのか、と。
ロウ:「ハチ!!武器は?」
ハチ:「ビームサーベルを使え!!」
ナチュラルがMSを動かすなど通常では有りえない。
だが、彼はハチを介する事でそれを可能としている。
ハチはロウの求めているものを判断し、ビームサーベルがどこにあるかを指し示す。
ロウ:「うおりゃあああ!!!」
背中に装着されたニ本のビームサーベルを抜くと、走り抜けざまにメビウスを切り裂く。
それはスマートな戦い方ではない。
しかし、あのジャンク屋には似合っている。
そんな風に劾が思っていると、通信が入った。
ロウ:「どうだい最強だろ?俺の悪運は」
通信から聞こえてきた声はあのジャンク屋だ。
しかし、ロウとは対照的に劾は困惑していた。
劾:『仕掛けてくるのか・・・・・・』
コロニーの中ではロウに圧勝した劾。
戦力的には、不利だったが長年の戦闘経験の長さが劾に勝利を導いた。
しかし、今回は違う。
二人は同じ性能のMSに乗っている。
ただし、劾のMSにはエネルギーがあまり残っていない。
ビームライフルも後1発が限度だ。
戦いになったとしても、劾からすれば勝てない相手ではない。
しかし、戦いたい相手でもない。
彼は敵を目の前にして迷っていた。
劾:「その悪運を俺に通用するか試してみるつもりか?」
ロウ:「いいね〜」
迷いを振り払うために通信を送った劾。
だが、相手の返事を聞いてすぐに戦闘体制に入る。
すぐに攻撃しなかったのは、残りのエネルギーを有効に使うためだ。
残り少ないエネルギーでは、ベストなタイミングで使うのが好ましい。
エネルギーが満タンであったなら、すぐにトリガーを引いていただろう。
ロウ:「でも・・・・・・そんなことしなくても俺の悪運は最強さ。それにここで戦ったら、お宝2機に傷をつけることになっちまう。だから、ここはやめとくさ」
やはり、劾にとってこの男は憎めなかった。
劾は、ASTRAYのライフルを降ろした。
そこへ周辺に1機のMSの反応がする。
劾やイライジャにとって未確認のMSだ。
マサカズ:「助けに・・・・・・ってもう終わってるじゃないか」
形状はアストレイに似ているが、何か違う。
敵か!と思った劾だが、ライフルを向ける事は無かった。
ジャンク屋の方は戦闘態勢に入っていない。
おそらく、ジャンク屋の仲間だろう。
あるいは・・・。
*
その後、劾達はジャンク屋の船に来ていた。
イライジャは戦闘になる前にも来ていていたので2回目だ。
隣にはマサカズが居る。
先程のMSはマサカズの物だったのだ。
結果的に劾のもう一つの予想が当たった。
話を聞くとどうやら、この男は劾達ともジャンク屋とも知り合いだったらしい。
適当に話した後、艦橋へ向かった。
そして、ジャンク屋のメンバーと会った。
ロウ:「俺の名はロウ。ロウ・ギュールだ。あんたは?」
劾:「俺は、叢雲劾。こっちはイライジャ・キールだ」
互いに自己紹介を済ませる。
次に口を開いたのは、ロウだった。
ロウ:「アンタも俺達と同じ、追われる立場になったな」
どこか嬉しそうな口調で話す。
何が嬉しいのだろうか?
そう思いつつ、劾は答える。
劾:「そのようだな」
あえて表情を出さずに答えた。
ロウが考えているような「見た者だから」という理由で負われる訳ではないだろうが、このままオーブが劾達を見逃すとは考えにくい。
実際、ここにはマサカズというオーブの人物が居るのだから。
マサカズ:「少なくとも、俺やアスハ家関係者はお前達を追わない。追うとすればそれは・・・あのアストレイの製造に関係した者だろうな」
あえて彼は“サハク家”という単語を出さずに言った。
言えば、ややこしい事になるからだ。
ロウ:「教えてくれてありがとな、マサカズ。でも、余計な事はしなくていい。お前の立場だって危なくなるぞ」
彼の言葉にマサカズは「本当にいいのか?」と聞き返した。
それでも、ロウは余計なことはしなくていいと答える。
これには劾も同意見だった。
彼に余計な借りを作りたくはないからだ。
ロウ:「ところでアンタに貸した青いMSだけどな・・・・・・くれてやるよ」
劾:「いいのか?」
ロウ:「結果的にこの船も守ってもらったしな。借りは必ず返さなきゃいけない。死んだ爺ちゃんがよく言ってたぜ」
マサカズやイライジャは黙って、見守っている。
自分達が口出しするべきことではないと理解しているからだ。
劾:「・・・・・・では、遠慮なく貰っておこう」
劾が話すと、イライジャが劾に耳打ちする。
そろそろリード達と合流するためだ。
ロウ:「また、どこかで会いそうな気がするな」
劾:「ああ。その時はまた敵同士かもしれんがな」
ロウ:「その時はその時さ」
彼は笑っている。
非常に気持ちの良い笑顔だった。
気づけば、劾は笑っていた。
自分でも気づかないうちに自然と笑っていたらしい。
劾:『本当に面白い男だ』
彼らはブリッジを出て行った。
ロウ達に人助けのお礼を言うと、マサカズも去っていった。
こうして赤と青のアストレイが世に放たれた。
ヘリオポリスから放たれたGと同じく、この2機も数奇な運命を辿る事になっていく。
その先に待っている未来は彼らでさえも知らない。
END
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