ゼルムス:「人に見えないところで苦労や努力をする者・・・という意味だな」

それは、陰にぴったりの言葉であった。
例え、誰にも気づかれなくても努力したことには変わりない。
これは小学生などが行う劇で考えたら分かりやすいだろう、とゼルムスはパルキに説明を行った。
劇での背景は小学生や中学生の場合、手作りものが多い。
これを作っているのが影の役者、俗に大道具と呼ばれる人達である。
彼らは役者と違って、劇中で登場することはまずない。
しかし、劇において背景などは重要だ。
背景がない劇の方が少ないだろう。
つまりは大道具の彼らも立派な仕事をしているのだ。
ここでは縁の下の力持ちという言葉が合う。

ノウ:「わしがお前に言いたいのは、お前にしか出来ない仕事があるということだ。面倒な仕事はあのアスハの小僧にでも任せればよい」

微笑みながら、ノウは言う。
さらに彼はこう付け加えた。
どうせ家にはまともに帰っていないのだろう、と。
しばらく、考えてパルキは言った。

パルキ:「ならば、俺は運命(さだめ)をも引き継がねばな。パルキ・グロードとして。俺はカガリやマサカズ達とは違う。あえて本名で俺は動く。それが俺の背負うべきものだから」



「PHASE−12 剣豪の集う居住衛星 Bパート」





彼の表情は決意に満ち溢れていた。
ゼルムスにも笑みがこぼれる。
ただ、ノウは響くほど大笑いしていたが。

ノウ:「わはっはは・・・。ならば、その道を行け。お前がそう決めたのなら、わしからは言うことはない。で、話が脱線してすまなかったな、一体何を聞きに来た?」

いきなり、話が変わった。
この展開に付いていけないゼルムスは戸惑う。
一方でそう言ったノウは話しながら気づいていた。
あのパルキが何の用もなしに、自分に会いに来るはずがないと。

パルキ:「俺は、爺さんに聞きたいことが二つある。まず、ナイト一族がどこに居るか聞きたい」

ナイト一族とは、ウン・ノウの先祖とグロード家の遠い親戚にあたる一族である。
その名の通り、騎士を意味するナイトという名は伊達ではなく、旧世紀の歴史に大きく関与したとされている一族である。
かつてはグロード家に忠誠を誓い、警護隊としてオーブに居たとされるが、それは何十年も前の話。
現在でもその一族の関係者が生きているのかどうかを彼は聞きに来たわけである。

ノウ:「奴らか・・・。わしの記憶が正しければ、伝説の海底都市に行くとか言っておったな。まだお前が生まれるずっと前の話だから、今は知らんが」

パルキ:「そう・・・なのか。ありがとうな爺さん、じゃあもう一つ。俺に足りないものを教えてくれ!あいつは・・・キテンはずっと言うんだ。お前には何かが足りないって・・・そいつを教えてくれ!」

彼の足りないもの。
長年の経験から、ノウは彼の足りないものがなんとなくだが、分かっていた。
しかし、それを教えるのに達しているかを見るため、彼は大声で言った。

ノウ:「お前に足りないものか・・・。いいだろう、一度わしに見せてみろ。お前の実力を。そして、わしに勝てばその足りないものを教えてやる!」

刀を鞘から引き抜く、パルキとノウ。
当然、刀を互いに構える。
ゼルムスは二人の戦いの邪魔にならないよう、離れて見守る。
そして、戦いは開始された。
刀と刀の勝負、パルキとノウの真剣勝負が。


ロウ:「グレイブヤード?」

アルテミスから帰ったロウは、行く先を考えていた。
行く場所が決まっていたわけではないので、彼はエネルギーを消費しない剣を探していた。
ジンの剣、重斬刀は重さで切る剣であるため、鋭さはほとんどない。
確かにビームサーベルでも良いのだが、エネルギーを激しく使うので、とても積極的に使える武器ではないのだ。
それはビームライフルにも言えることだが、こちらは替えがないと言ってもいいほどの驚異的な武装である。
なので、必然的にエネルギーを使わない近接武器を探しているのだ。
実際、サーペントテールの劾は前回の戦いでは、ほとんど実弾でロウを攻撃している。
これはエネルギーを節約しながら、戦っている証拠であり、長く戦うには必要なことなのである。

プロフェッサー:「そ。昔に地球から多くの技術者が移り住んだとされる居住衛星。ここにはガーベラストレートと呼ばれる剣があるわ」

パソコンを操作し、プロフェッサーをその剣の映像を出した。
そこには日本刀のような剣が映し出されていた。
MSが扱えるほどの大きさであり、よく見ると刀の茎(なかご)には「菊一文字」と彫られている。

リーアム:「にしても、この情報をどこで手に入れたんですか?」

プロフェッサー:「昔付き合ってた情報屋からよ・・・じゃあ、私は寝るからおやすみ」

そう言うと、彼女はブリッジから出て行った。
プロフェッサーが意味深な発言をしたため、キサト達はあれこれ憶測を立てる。
彼女は過去が謎であり、ロウ達も長く行動を共にしているが、未だに教えてもらっていない。
だから余計に、色々と想像してしまうのだ。

ロウ:「そんなことより、グレイブヤードに刀を取りに行く!絶対、行くぞ!」

行く先が決まり、進路はデブリ帯の中にあるグレイブヤードとなった。
偶然にもアルテミス宙域がそれほど近い位置にあり、行くのに1日とかからなかった。
しかし、肝心のグレイブヤードは広大なデブリ帯の中にあるため、探す作業に1日を要してしまう。
ついにグレイブヤードが見つかり準備を整え、ロウ、リーアム、キサトはグレイブヤードの中へと向かった。
グレイブヤードでは彼らが入ると同時に警報が鳴り響く。

ノウ:「侵入者か・・・」

彼の言葉に緊張が走る。
グレイブヤードは以前から侵入者が多い。
以前、侵入者の撃退の際、ノウの使っていたMSサイズの名刀が折れてしまったのだ。

ゼルムス:「どうしますか?ここは私が・・・」

ノウ:「まず、確かめるためにわしが行こう。状況によってはお前を呼ぶ」

そう言うと、愛犬の伝八とともにノウは専用のバクゥへと乗り込み、ゼルムスの視界から消えた。
非常時に備え、ゼルムスも自らのMSリートのコックピットにて待機する。
待っている間ゼルムスは、油断しているわけではないのだが、昨日のパルキとノウの戦いについて思い出していた。

戦いは激しい打ち合いの末、パルキが勝利した。
しかし、勝ったというのにパルキはどこか悲しんでおり、それは見ていたゼルムスにも理解できた。

パルキ:「ゼルムス、爺さん、俺はもう行く。・・・爺さん、無茶はするなよ」

ノウ:「お前に言われるとは・・・。まぁ、よい。お前に足りないものを教えてやる。お前に足りないものは“活人剣”だ。それが何かは自分で掴め」

彼はノウを心配するような言葉を残した。
そして、それを聞いたパルキは去っていった。
彼を見送ると、ゼルムスは口を開いた。

ゼルムス:「師匠、私の仲間に腕の立つ医者がいます。旧世紀の伝説に出てくる医者へ届きそうな程の良い医者が」

ノウ:「ゼルムス、わしの体のことはわしが分かっておる。いくらその医者が優秀だとしても、わしは頼まない。わしはその日が来るまで精一杯生きる」

その言葉を思い出し、余計に心配になるゼルムス。
おそらく彼は長くは生きられない。
ゼルムスの心の中に止めたいと思う自分がいる。
しかし、ダーキンに提案したところで無駄だろう。
ノウは頑固なのだから。

ゼルムス:「師匠、無理はなさらないでください・・・」

それはゼルムスがふと呟いていた。
ただ、ノウを心配して。






END
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