劾:「まさか・・・・・・」
シールドの飛んできた方向へと目を向ける。
そこにあったものは、自分の予想の範囲内の物だった。
ロウ:「俺の船に手を出すなァ!」
ヘリオポリスの方向から、現れたのは赤いMS。
それは劾のASTRAYに似ている。
理由は勿論、同型機であるからだ。
劾は思わず、心の中で叫んだ。
もう1機見つけていたのか、と。
ロウ:「ハチ!!武器は?」
ハチ:「ビームサーベルを使え!!」
ナチュラルがMSを動かすなど有りえない。
だが、彼はハチを介する事でそれを可能としている。
ハチはロウの求めているものを判断し、ビームサーベルがどこにあるかを指し示す。
ロウ:「うおりゃあああ!!!」
背中に装着されたニ本のビームサーベルを抜くと、走り抜けざまにメビウスを切り裂く。
それはスマートな戦い方ではない。
しかし、あのジャンク屋には似合っている。
そんな風に劾が思っていると、通信が入った。
ロウ:「どうだい最強だろ?俺の悪運は」
「PHASE−5 ジャンク屋と傭兵 Bパート」
通信から聞こえてきた声はあのジャンク屋だ。
しかし、ロウとは対照的に劾は困惑していた。
劾:『仕掛けてくるのか・・・・・・』
コロニーの中ではロウに圧勝した劾。
戦力的には、不利だったが長年の戦闘経験の長さが劾に勝利を導いた。
しかし、今回は違う。
二人は同じ性能のMSに乗っている。
ただし、劾のMSにはエネルギーがあまり残っていない。
ビームライフルも後1発が限度だ。
戦いになったとしても、劾からすれば勝てない相手ではない。
しかし、戦いたい相手でもない。
彼は敵を目の前にして迷っていた。
劾:「その悪運を俺に通用するか試してみるつもりか?」
ロウ:「いいね〜」
迷いを振り払うために通信を送った劾。
だが、相手の返事を聞いてすぐに戦闘体制に入る。
すぐに攻撃しなかったのは、残りのエネルギーを有効に使うためだ。
残り少ないエネルギーでは、ベストなタイミングで使うのが好ましい。
エネルギーが満タンであったなら、すぐにトリガーを引いていただろう。
ロウ:「でも・・・・・・そんなことしなくても俺の悪運は最強さ。それにここで戦ったら、お宝2機に傷をつけることになっちまう。だから、ここはやめとくさ」
やはり、劾にとってこの男は憎めない。
劾は、ASTRAYのライフルを降ろした。
そこへ1機のMSの反応がする。
劾やイライジャにとって未確認だ。
マサカズ:「助けに・・・・・・ってもう終わってるじゃないか」
形状はASTRAYに似ているが、何か違う。
敵か!と思った劾だが、ライフルを向ける事は無かった。
ジャンク屋の方は戦闘態勢に入っていない。
おそらく、ジャンク屋の仲間だろう。
あるいは・・・。
*
その後、劾達はジャンク屋の船に来ていた。
イライジャは戦闘になる前にも来ていていたので2回目だ。
隣にはマサカズが居る。
先程のMSはマサカズの物だったのだ。
結果的に劾のもう一つの予想が当たった。
話を聞くとどうやら、この男は劾達ともジャンク屋とも知り合いだったらしい。
適当に話した後、艦橋へ向かった。
そして、ジャンク屋のメンバーと会った。
ロウ:「俺の名はロウ。ロウ・ギュールだ。あんたは?」
劾:「俺は、叢雲劾。こっちはイライジャ・キールだ」
互いに自己紹介を済ませる。
次に口を先に開いたのは、ロウだった。
ロウ:「アンタも俺達と同じ、追われる立場になったな」
どこか嬉しそうな口調で話す。
何が嬉しいのだろうか?
そう思いつつ、劾は答える。
劾:「そのようだな」
あえて表情を出さずに答えた。
ロウが考えているような「見た者だから」という理由で負われる訳ではないだろうが、このままオーブが劾達を見逃すとは考えにくい。
実際、ここにはマサカズというオーブの人物が居るのだから。
マサカズ:「少なくとも、俺やアスハ家関係者はお前達を追わない。追うとすればそれは・・・ASTRAYの関係者だろうな」
あえて彼は“サハク家”という単語を出さずに言った。
言えば、ややこしい事になるからだ。
ロウ:「教えてくれてありがとな、マサカズ。でも、余計な事はしなくていい。お前の立場だって危なくなるぞ」
彼の言葉にマサカズは「本当にいいのか?」と聞き返した。
それでも、ロウは余計なことはしなくていいと答える。
これには劾も同意見だった。
ロウ:「ところでアンタに貸した青いMSだけどな・・・・・・くれてやるよ」
劾:「いいのか?」
ロウ:「結果的にこの船も守ってもらったしな。借りは必ず返さなきゃいけない。死んだ爺ちゃんがよく言ってたぜ」
マサカズやイライジャは黙って、見守っている。
自分達が口出しするべきことではないと理解しているからだ。
劾:「・・・・・・では、遠慮なく貰っておこう」
劾が話すと、イライジャが劾に耳打ちする。
そろそろリード達と合流するためだ。
ロウ:「また、どこかで会いそうな気がするな」
劾:「ああ。その時はまた敵同士かもしれんがな」
ロウ:「その時はその時さ」
彼は笑っている。
非常に気持ちの良い笑顔だった。
気づけば、劾は笑っていた。
自分でも気づかないうちに自然と笑っていたらしい。
劾:『本当に面白い男だ』
彼らはブリッジを出て行った。
ロウ達に人助けの例を言うと、マサカズも去っていった。
こうして赤と青のASTRAYが世に放たれた。
ヘリオポリスから放たれたGと同じく、この2機も数奇な運命を辿る事になっていく。
その先に待っている未来は彼らでさえも知らない。
END
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