通路を駆けていく、メビウス。
そのメビウスには蛇のマークがあった。
蛇のマークはサーペントテールを意味するマークだ。
さらに数字は1。
これはパイロットが叢雲劾ということを表している。
だが、そんなことを知らないロウは奇襲をかけた。
それは丁度、劾がイライジャとの通信を終えた頃だった。

ロウ:「先手必勝だぁ!!!」

何の迷いもなく、ビームライフルを放った。
それは一瞬で空気をイオン化させた。
しかし、次の瞬間ロウは驚いた。
敵のメビウスは攻撃をかわし、バルカンを放ってきたのだ。
まさか、ビームが避けられると思ってなかったロウは上の通路へと引いた。
ビームは粒子にエネルギーを与え加速したモノで光に近い速度を持っている。
そのため、物理的には発射された後のビームを回避するのは無理に等しい。
劾がビームをかわせたのは、少なくともセンサーのおかげではない。
コロニーの残骸が漂っているため、ある意味デブリベルトのような状態だ。
この状態ではセンサーは使い物にならない。
彼がかわせたのは長年の戦闘経験から養われた洞察力のたまものなのである。

ロウ:『さぁ、どうする?傭兵さん』



「PHASE−4 史上最高のお宝 Bパート」






劾が通路を受けた先。
そこでジャンク屋は両手をあげていた。
これは降伏宣言とも呼べる状態だ。
ロウの作戦など知るはずのない、劾は一端距離を置いた。
距離にして30m前後だ。
これならば、ジャンク屋の男がMSのコックピットに戻るよりも、早く攻撃出来る。
劾がハッチを開けた時、ロウは叫んだ。

ロウ:「今だ8!!」

その瞬間、MSは動いた。
正確に言えば、ビームライフルを持っている右腕である。
MSが動いた事を目にした劾は、メビウスの上部装甲を蹴り上げた。
蹴り上げた際のジャンプ力、ビームの風圧によって劾は体を流された。
結局は間一髪、避ける事が出来たのである。
メビウスの方は爆発して、激しい爆風が起きていた。
劾は恐ろしいほどの運動神経で、すぐに体のバランスを取り戻した。
そして、残骸を蹴っていき、ジャンク屋の両腕の手首を掴んだ。

劾:「中々良い作戦だったな」

ロウ:「何が目的だ!」

劾:「このMSを破壊する」

静かに答えた後、劾はロウを後方へと投げ飛ばした。
次にロウを投げ飛ばした反作用で、前方へと進む。
そして、コックピットへと入った。
一方のロウは投げ飛ばされたせいで頭を抑えながら、「あっ、てめぇ!」と叫ぶ。

劾:「俺達の任務はコイツの破壊。および、コイツを見てしまった者を消す事だ・・・・・・・・・」

ロウ:「なんだって!ソイツは俺んだ。破壊するなんてヤツにはジャンク屋の意地にかけても渡せねェ!!もったいなくな!!」

こう話している時、劾はあること気づいた。
自分はこの男に好感を持っていることだ。
手に入れたお宝のために命を張る、まさにジャンク屋に呼ぶのに相応しい。
今までも、この男は真っ直ぐに生きてきたのだろう。
彼はスーツのヘルメットをぬぎ、男に素顔をさらした。

劾:「・・・・・・なるほど面白い考えだ。しかし、この状況ではどうすることもできまい?」

ロウ:「まだ分からないぜ。俺は宇宙一悪運が強いんだ。今日だってこんなお宝を見つけたんだからな」

劾:「運だけでは、戦場では生き残れない・・・・・・」

彼は失望していた。
このジャンク屋が悪運の持ち主ならば、この状況を打破したかもしれないというわずかな期待をかけていた自分に。
劾は依頼どおりピストルに引き金の力を込めた。
そして、放とうとした時。
思わぬことが起きた。
突如、劾の後ろからビビビビビ、と鳴る。
振り返ると、イライジャの顔が映し出されていた。

イライジャ:「大変だ劾!!依頼主がいきなり攻撃してきやがった。こっちは長く持ちそうにない!」

劾:「その周辺に他にザフトなどが居るか?」

イライジャ:「いや、ザフトや地球軍は居ないが・・・ジャンク屋の話だと、俺の居る真逆の方にマサカズ・ライモートが居るらしい」

劾はマサカズの名に聞き覚えがあった。
奴とは幾度となく会ってきたことがある。
敵としても、味方としても。
だが、真逆の方では彼が来るのに時間は掛かる。
ならば、自分が行くしかなさそうだ。
それにイライジャを殺すわけにもいかないし、裏切りは許さない。

ロウ:「どうやらアンタらも雇い主にとっては『コイツを見てしまった人間』らしいな」

勝ち誇ったような顔をロウはしていた。
まさか、コイツの悪運が?
そんなことはありえない。
すぐにイライジャのところへと行かなければならない。
だが、この男はどうする?
引き金に力を込めてこの男を殺しても、大したタイムロスでしかない。
だが、依頼主が裏切ったのであれば、アストレイの秘密を知った者を消すという依頼も消えた事を示している。

劾:「(本当に悪運の強い奴だ)コイツを借りるぞ!」

彼はピストルをしまうと、ジャンク屋の持ち物と思われるパソコンのようなものをコックピットからはずした。
そして、ロウにそれを投げつける。
ついにはコックピットも閉める。
外ではロウが叫んでいた。

ロウ:「傷つけたら弁償してもらうからな!!!」

劾はロウを無視して、システムのチェックを始めた。
エネルギーはほぼ満タン、システムにも問題はない。
しかし、OSは不完全だった。
動かすのがナチュラル前提のOSのせいだろう。
すぐさま、コーディネーターの反射速度に合わせて書き換えていく。
その書き換えるスピードはキラ程ではないが、普通のコーディネーターを上回るスピードであるのは確かだろう。
数秒でOSの調整を終えた劾は、イライジャの待つ外へとMSを飛ばす。
その後、すぐにロウはキサトやリーアム達と合流した。

リーアム:「・・・で“ホーム(母艦)”のプロフェッサーから連絡がありました。どうやらその傭兵は敵に襲われた『仲間』を助けに行ったようです」

キサト:「『敵』って・・・・・・?」

ロウ:「雇い主の事さ」

彼らは残った赤いMSにちょっとした修理をしながら話していた。
勿論、修理といっても小さな修理だ。

リーアム:「ところでコレを起動させてどうするつもりですか?ロウ・・・」

ロウ:「傭兵を助けるのさ」

この発言にはリーアムもキサトも驚いた。
何故、傭兵を助けるのか?
気づけばロウはコックピットに入っている。

ロウ:「あいつと俺らはすでに一蓮托生なんだよ・・・・・・それに俺はな・・・・・・あいつらに貸しているお宝を・・・・・・傷つけられたくないからな!!!」

リーアム:「あなたはパイロットではないんですよ!!戦うなんて無理です!!!」

彼の言う事は確かだ。
ナチュラルがMSを動かすなど不可能だ。
第一、彼は一度もMSを動かした事すらないのだ。

ロウ:「俺はメカの専門家“ジャンク屋”さ・・・・・・それに8も居るんだ。いざとなったらコイツに操作を任せる。・・・だからメカに関することならこの俺に不可能な事は・・・ないゼっ!!!」

彼は外と向かった。
傭兵を助けるために。
プロフェッサーを助けるために。
何より、お宝に傷を付けさせないために。






END
NEXT「PHASE−5 ジャンク屋と傭兵 Aパート」